冬の東京をさまようシニアのトイプードル 視力はなく肺水腫で咳が止まらない 老犬を救った人々の愛と勇気
寒さが身に沁みる今年の正月、東京の寒空の下、毛玉だらけの小さな体でひとりぼっちでさまよっていたシニアのメスのトイプードルがいました。後に東京都動物愛護相談センターに収容されましたが、飼い主からの連絡はなく、おそらく意図的に棄てられたと思われました。
センターの職員たちは、登録している保護団体にこのトイプードルの引き出しを打診しました。しかし、推定14~15歳という高齢であることから、どこからも名乗りが上がりませんでした。
■「私が預かります」「私が最期を看取ります」
収容から約2カ月半経過し、殺処分が目前に迫ったとき、手を挙げたのは保護団体「アイドッグ・レスキュー隊」でした。団体のキャパシティはいっぱいでしたが、15年間も飼い主の元で過ごし、シニア犬になって捨てられたワンコの最期を「殺処分」にするわけにはいかないと、スタッフたちは決意しました。
スタッフが一般公募の支援者に引き取りの声をかけたところ、「私が引き取ります」「私が最期を看取ります」といった声が複数上がりました。その思いを受け、スタッフはセンターに引き取りに向かいました。
後に「紅」と名付けられたこのワンコ。保護された当初、頻繁に咳をしていたため、すぐに動物病院へ連れて行きました。診断の結果、肺水腫をはじめとする複数の持病があり、両目も全く見えていないことが分かりました。紅はそのまま数日間、入院することになりました。
若いワンコなら手術も考えられますが、紅はシニア犬です。手術は避け、3種の投薬とシロップを与え、退院後は預かりボランティアの家で過ごすことになりました。
■寝顔に「ありがとうね」と感謝の言葉
紅は目が見えないながらも、鼻を使ってトイレシートなどを認識し、他のワンコとも仲良く過ごしていました。食欲も旺盛で、体も元気に動かします。お腹が空いたときは「ワンワン」と催促するほどでした。満腹になると、他のワンコと一緒に穏やかな表情で眠りにつきます。
預かりボランティアは、紅のスヤスヤ眠る寝顔を見て「助けることができて本当に良かった。毎日が紅のおかげで幸せだよ。ありがとうね」と感謝の言葉をかけました。
紅は肺水腫と向き合い続けなければなりませんが、体調が少し安定したところで、保護当初に名乗りを挙げてくれた里親さんの家に正式に譲渡されることになりました。里親さんは「紅の晩年が幸せなものになるように世話し、最期まで看取ります」と約束し、紅はこの優しい方の家で穏やかな晩年を送っています。
紅の犬生は長くないかもしれません。しかし安心して過ごせる「お家」を見つけ、最悪の事態を避けることができたのは、さまざまな人の思いがあったからでした。紅の穏やかな日々が1日でも長く続くことを願います。
(まいどなニュース特約・松田 義人)