昭和のグッドデザイン賞に、令和のローレル賞が走る “時代の最先端”車両が行き交う、近鉄けいはんな線
近鉄けいはんな線は、長田(大阪府東大阪市)と学研奈良登美ヶ丘(奈良県奈良市)を結ぶ路線です。同線は1986年に「東大阪線」という名称で、長田~生駒間が開業したのがはじまりです。開業当初から、大阪市営地下鉄(現大阪メトロ)中央線と相互直通運転を実施しています。
そんな、けいはんな線ですが、各時代の最先端の車両が行き交う路線でもあるのです。しかも、デザイン的に優れた車両が多いとか。少し違う角度から、けいはんな線の魅力に迫りたいと思います。
■現在でも斬新な卵型の近鉄電車
けいはんな線は近鉄の一路線ですが、他路線とは異なり、第三軌条方式を採用しています。通常、電車は架線からパンタグラフを通じて集電します。一方、第三軌条方式の電車は、上部にパンタグラフがありません。
その代わり、レール横にある電気が流れるレール「第三のレール」から、車両下部に取り付けた器具を通じて集電します。当然のことながら、乗り入れ先の大阪メトロ中央線も、第三軌条方式です。
そのため、既存の近鉄電車はけいはんな線に乗り入れることはできません。そこで、近鉄はけいはんな線(開業時は東大阪線)専用車両7000系を、登場させることにしました。
車両のデザインは、従来の真四角のような前面ではなく、卵のような丸型に。塗装も、赤色と白色の組み合わせでなく、白色・オレンジ色・水色の組み合わせになりました。
先述したように、けいはんな線の前身にあたる東大阪線が開業したのは、1986年のことです。当時は、各家庭に自家用車やミニバイクが普及していたことから、「乗りたい」と思わせるような鉄道車両が求められていました。
このような時代背景もあり、7000系のデザイポリシーは「未来を目指す車両」「ホスピタリティー(もてなし)を持つ車両」に決定。こうして、あの卵型の車体が生まれた、というわけです。
また、斬新な塗装に関しては、白色は若々しさなどをイメージ。オレンジ色は生駒山の太陽、水色は大阪湾の海を表現しています。
7000系は、東大阪線開業前の1984年に登場しましたが、現在から見ても、なかなか斬新なデザインです。世間からも高評価を得て、1986年に鉄道車両では初となる通商産業省(現経済産業省)の「グッドデザイン賞」を受賞しました。
■令和の新型車両400系も乗り入れる
けいはんな線の乗り入れ先の大阪メトロ中央線は、2025年1月末に大阪・関西万博会場の夢洲に乗り入れます。万博に先立ち、大阪メトロは2023年6月に新型車両400系を導入しました。
400系のデザインは、従来の大阪メトロの車両とは異なり、豪華列車「トランスイート四季島」などを手掛けたデザイナーに依頼。その結果、宇宙船のような近未来的な車両になりました。また、6両編成のうち1両は、地下鉄車両では珍しく、クロスシートになっています。400系はデザイン性と多様な需要に応える設備が評価され、今年5月に、鉄道友の会のローレル賞に選ばれました。
400系も、けいはんな線に乗り入れます。つまり、けいはんな線では、デザイン性に優れた近鉄7000系、大阪メトロ400系が同時に見られる、というわけです。しかも、どちらも時代の先端をいくデザインです。昭和、令和の価値観が目に見えてわかる、という点において、けいはんな線は興味深い路線といえます。
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◆「日本最大の私鉄 近鉄 知らなかった凄い話」新田浩之著/KAWADE夢文庫、224ページ、792円(税込)
(まいどなニュース特約・新田 浩之)