「食事が私を苦しめたからこそ…」手術を繰り返し、3つの持病と生きてきた女性が開発した「超低糖質スイーツ」 子どもたちに笑顔と愛を届ける

食べることは生きること。だからこそ、病気などにより、大切な人と同じ食を共有できなくなると心が悲鳴を上げる。

そんな悲しみを減らすのが、糖質コントロールが必要な人に向けた超低糖質スイーツを販売する「株式会社Share Eat」。

代表の福田怜奈さんは「難治性重症便秘症」や「反応性低血糖症」、「脳脊髄液減少症」と生きる中で“食の悩みに直面。その経験を活かし、糖質制限がある人も食べられる超低糖質スイーツの開発に取り組んだ。

■これ以上、失うものがないなら…

福田さんは0歳の頃、悪性腫瘍の疑いで右卵巣を摘出。その後、腸が癒着して「難治性重度便秘症」となり、薬を飲まないと排便できなくなった。また、芸能活動中に摂食障害となり、体重は20キロ台に。

タレント業を辞めたことで摂食障害は快方へ向かったが、後遺症として「反応性低血糖症」を発症。この病気は食後、急激に血糖値が上がり、ピークに達すると急激に血糖値が下がる。糖質をコントロールすることが、福田さんの日常となった。

また、卵巣破裂を発症し、2度目の開腹手術を経験。腸が癒着して自力での排便ができなくなり、手術後には予期せぬ病気も判明。脳脊髄液が漏れ出して頭痛やめまい、倦怠感などの症状が起きる「脳脊髄液減少症」と診断されたのだ。

手術を3度受けて病状はよくなったが、私生活はドン底。離婚を経験し、体調を崩して介護の仕事ができなくなった。

だが、福田さんは強い。これ以上、失うものがないのなら新しいことを始めようと、起業を考えたのだ。

「それと、これまで人に迷惑をかける生き方をしてきたという想いがあったので、役に立つ人間に生まれ変わりたいという気持ちもありました。闘病中、私を苦しめたのは“食事”と“自分を役立たずとしか思えない日々“だったので、食を通して誰かの幸せや喜びのために役立ちたかったんです」

■糖尿病当事者の「みんなと同じものが食べられない」を解決したい

低糖質の商品作りに興味を持ったのは、老人介護施設で働いていた頃に見た糖尿病のおばあさんが心に残っていたから。おやつの時間にひとりだけお茶をすする、おばあさんの姿は大切な人と自由に食を楽しめない自分と重なった。

「私は家族や友達と同じものが食べられないことが一番辛かった。『一緒に食事に行くとつまらない』と言われたり、家族が気を遣って内緒で外食したりすることが悲しかったです」

もしかしたら、自分の経験が役に立つかもしれない。そう考えた福田さんはケーキやパンなどを作りながら本格的に開発・販売する商品を試行錯誤し始めた。

そんな中、運命的な出会いが。糖尿病学会のシンポジウムに出展した際、1型糖尿病の子を持つ母親の「我が子にホットケーキを食べさせたい」という声が心に響いたのだ。

誤解されやすいが、1糖尿病型は先天性疾患や生活習慣病ではなく、自己免疫によって発症する病気。小児期の発症が多いことから「小児糖尿病」とも呼ばれている。

低血糖時にはすぐ糖質を摂取する必要があるため、当事者はラムネや飴などを携帯しているが、学校生活の中では周囲の目が気になり、適切なタイミングで糖質を摂取できず、重大な事故に繋がるケースも少なくない。

この母親との出会いにより、福田さんは糖質のコントロールが必要な子でも自宅でホットケーキが食べられるよう、研究を重ね、超低糖質のミックス粉を開発した。

当時、低糖質の製品は注目されにくかった。だが、福田さんは諦めず、実績を作って売り上げを伸ばそうと考え、現在、代表を務める「株式会社Share Eat」を立ち上げたのだ。

販売されているスイーツの中で一番人気なのは、砂糖や小麦粉は不使用の「超低糖質フィナンシェ」(5個/税込1,540円)。

生ケーキや濃厚なショコラケーキなど、冷たいスイーツも販売している。

売り上げの一部はNPO法人を通じて、1型糖尿病の治療献金に寄付しているという。

糖質との付き合い方に悩む人の切実な声に耳を傾ける中では、商品の売り方を見直したことも。自社の名前を売ることより、必要としている人に届くことを重視し、他企業と積極的に連携して、超低糖スイーツの販売を行うようになった。

「自社で商品を増やして在庫を抱えるより、たとえ自社の名前が出なくても、他の企業を通して色々な種類の低糖質スイーツを販売したほうが当事者に喜んでもらえると思ったんです」

■1型糖尿病の子にケーキと愛を伝える「クリスマスケーキプロジェクト」

超低糖質スイーツの開発・販売以外に、福田さんにはもうひとつ力を入れている活動がある。それは、普段甘いものを自由に食べることができない1型糖尿病の子どもに低糖質のケーキを届ける「クリスマスケーキプロジェクト」だ。

このプロジェクトは、1型糖尿病の子を持つ親御さんの「街中が浮かれて楽しくなるクリスマスの幸せを共有したい」という声から生まれた。活動は、1型糖尿病に関する知識の啓発を行う認定NPO法人 日本IDDMネットワークと連携して行っている。

当初は、いずれ自社の資金で継続していこうと考え、クラウドファンディングに挑戦。だが、寄せられた応援メッセージを全て読む子どもたちの姿を見て、考えが変わった。

「誰かひとりでも、ちゃんと見ている、応援していると伝える大人がいれば、子どもは頑張れる。このプロジェクトはクラウドファンディングで行うからこそ、『どこの誰か知らないけれど、自分たちを思ってケーキを送ってくれる人がいるなら、世の中はそんなに捨てたもんじゃない』というメッセージが伝わると思うんです」

超低糖質のクリスマスケーキを受け取った子どもたちの反応は、愛くるしい。「お皿まで舐めていた」「なかなか食べられず、枕元で一晩寝かしていた」など、親御さんを通じて知る子どもたちの嬉しい反応に福田さんの顔はほころぶ。

「続けてほしい」という声があるから、この事業は絶対に潰せない。そう話す福田さんはプライベートで子ども食堂と関わり、おやつの商品開発を担当してもいる。

印象に残ったのは、ネグレクトなどの深刻な社会課題を背負う子どもたちがみんなでお菓子を食べた時、口数が増え、笑顔になったこと。“誰かと一緒に食べることの価値”を、改めて痛感した。

「食を共にするって、お互いの幸福度や経験、時間など、おいしさ以外のものもシェアする。大袈裟かもしれないけれど、ひとつの食卓は人生を反映していると思うんです」

事業を始めた当初は病気の有無に関わらず、一緒に何かを分け合える食卓を作ることが目標だった福田さん。今は目指す方向が少し変わり、低糖質スイーツ業界を裏で支える“縁の下の力持ち”になりたいと考えている。

「嫌なことがあった時や躓くことがあった時など、何かのタイミングで私たちの作ったお菓子や誰かと一緒に低糖質スイーツを食べた記憶を思い出してくれたら最高です」

福田さんが生み出す超低糖質スイーツは、誰かが自分を想ってくれていることを思い出せる“心のお守り”にもなってくれる。

(まいどなニュース特約・古川 諭香)

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