あの「山ガール」は今? 登山を始めたい50代女性に必見の入門書、著者に聞いた
25歳から登山を始め、「山ガール」を牽引したイラストレーターの鈴木みきさん。著書20作目の節目に50~60代女性に向けた登山初心者の入門書『大人の日帰り登山』を5月24日に上梓。「登山」には興味があるけど、運動も何もしてないしな、という二の足を踏んでいる人に向けた実践的なアドバイスを盛り込み、中年の悲哀を込めて描いた一冊となっています。出版記念サイン会で、鈴木みきさんに話を聞きました。
ーー山についての本は、6年ぶりとなる新刊なのですね。
いつも「山に来てほしい」という思いを込めて本を書いてきました。最初の一冊をきっかけに山登りを始めてくれた子がどんどんステップアップしていくので、本の内容もステップアップ。それをひととおりやり終えて。で、私も50代になって、「行きたい時に山に行こう」と思ってもいろんな事情があってすぐには行けない。ブランクがあったりすると、体力や瞬発力があった若い頃よりもケガなどしないように考えなくちゃいけない。中高年向けに登山の始め方を聞かれるけれど、以前のようにはいかない、若い子と同じことは言えないな、と思って、こんな本を出してみたらいいのかなと思いました。
ーー全国各地の「石井スポーツ」でサイン会をされています。
サイン会で3ヶ所を回りました。今までと違うのは、初めましての人が多いこと。コロナで登山を始めたっていう人が多かったです。私の本に出会って、いろんなタイトルがあるので、読んでみましたと。今までの読者さんは「山ガール」ブームで始めた少し年下が多かったのですが、今回は私と同世代か少し上の方で。山に行けば一番元気なのは高齢者ですし、40~50代で始めたらまだたくさん登れます。『悩んだときは山へ行け!』がデビュー作なのですが、「鈴木さんの本を読んだら、モヤモヤした気持ちがすっきりしました」と言ってくださる方が多く、話を聞いてほしいという方が来られますね。
ーーすっきり爽快な気分が味わえるというのが、登山の魅力?
私が山の魅力にはまったのは、24歳の時に行ったカナダで出合った壮大な山の景色に感銘を受けたからです。自分自身が解放された、丸裸にされたというか、山の中って「素」になれるんだという感じを初めて味わって。気づかなかったけれど、今まで私っていろんなものをため込んでいたんだな、だからがんばれなかったのか、しんどかったんだなと、思って。今もあの時のぶわ~っと高揚する気持ちやときめきを求めて、山に登っています。ちょっとでも、あの時の感じを味わえたらと。
ーーカナダ人の友達と行かれたのですよね。
最初は山が大きくてびっくりしました。カナディアンロッキーの旅です。バックパッカーで歩いていくのですが、普通の道路を歩くんじゃもったいないから、山の中をトレッキングして、次の目的地へ向かうような。そのときに雨が降ってきたので、上下カッパを着て歩いていたら「雨が自分に当たってる??」って感動したんです。東京で育った都会っ子だったので、雨が降ったら傘をさすのが当然と思っていたから、体に雨が直接当たっている感覚が、何か解放された、いろんなものがはずれていく…というような気持ちになりました。
■悩んでいる人にこそ、山に登ってほしい
ーーモヤモヤを抱えている、悩んでいる人にこそ、山に登ってほしいと?
登山の本はたくさんあるのですが、私は悩んでいる人向け担当ですね。世の中誰でもみんな、ちょっとはモヤモヤしてる。私の本の読者は、家庭や仕事、生き方に悩みはあるけど、人前ではニコニコしてるっていう社会性のある根暗の人が多いのではないかと思うんです。だからいつのまにか、ため込んじゃってる。私がカナダで自分を解放できて気づけたように、「だからがんばれなかったんだ」という経験をしてほしい。だから、日常から離れて自分の時間を持ってほしいな。アイドルとか映画とか、山でなくてもいいんです。なにか自分の世界があるといいかな。
ーー今は、お母さまの介護をされながら、山へも行かれています。
まだ介護生活を始めて1年ほどなので、母を置いて山に行くというのが、いいかどうかわからなくて、「思い立って山に行く」というのは今のところ、できずにいます。でも仕事で、母を置いて行く機会も増えて「母のことをほっとけるんじゃないかな」と思いました。ここ1ヶ月くらいで大丈夫じゃないかなと思えてきました。私にとっても、母と離れる時間も必要かなと思うので。
「ケガをしちゃって山に登れない、行きたいのに行けない」という人がサイン会に来てくれました。「山のことを考えると行きたくなるので、考えないようにしている」と。そういう状況が、私も同じだったので、「わかる、わかるよ」とお話を聞いていました。でも、山は一生続けられる趣味です。
「歳だから、私にはできっこないわ、もう3年も登ってないから、これから登山なんて」と思っている人に、やりたいことをやってほしいなと思います。なかなかないじゃないですか。中年になると自発的に自分からやりたいことって。でも、できない、やらないと決めつけないで挑戦してほしいです。
介護してても、いろんなことにぶちあたっても山を続ける。悩みながらも続けている、そういう姿を読者の方に見せたいな、と思うようにもなってきました。母とどう折り合いをつけてやっていくか。介護している人、本当に多いと思うのですが、みんな言わないよね、悩みを。だから、そのうちに介護の本も出すかもしれませんね。
【鈴木みきさん】
1972年東京都生まれ。イラストレーター・執筆家・防災士。山小屋のアルバイトや山雑誌での読者モデルを経てイラストレーターに。自らの登山経験を描いたコミックエッセイを発表し人気を集め、登山同行ツアーや講演など幅広く活躍している。著書に『日帰り登山のススメ あした、山へ行こう!』『地図を読むと、山はもっとおもしろい!』(ともに講談社)、『中年女子、一人で移住してみました:仕事・家・暮らし 無理しすぎない田舎暮らしのコツ』(平凡社)、『キャンプ気分で始める おうち防災チャレンジBOOK』(エクスナレッジ)など多数。
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鈴木みきさん『大人の日帰り登山』出版記念サイン会
石井スポーツヨドバシ仙台店(宮城県仙台市宮城野区榴岡1-2-13 ヨドバシ仙台第2ビル店1階)
日時:2024年7月6日(土)13:00-17:00
参加費:無料(石井スポーツ公式サイトで事前予約制)
(まいどなニュース・金馬 由佳)