銃撃未遂で“英雄”となったトランプ氏 米大統領の行方と今後の懸念

トランプ氏が7月13日、ペンシルバニア州で支持者を集めた選挙集会で演説中に突然ライフル銃で撃たれた。弾はトランプ氏の右耳上部を貫通したが、命に別状はなかった。トランプ氏は銃撃直後、右耳上部から赤い血が垂れ下がる状態で右手の拳を高々と挙げ、政治的暴力には絶対に負けないという姿勢を示した。この姿に会場の支持者たちは大きな拍手を送った。トランプ氏を狙ったのは20歳のトーマス・クルックス容疑者で、彼は銃撃直後にシークレットサービスによって射殺されたため、犯行動機などの真相は解明できなかった。

では、今回の銃撃事件は今後の米大統領選にどのような影響を与えるのか。まず、耳に重傷を負いながらも右手の拳で暴力に負けない姿勢を示したトランプ氏の姿が極めて印象的だった。この姿に支持者たちは盛大な拍手を送り、トランプ氏と距離を置いていた共和党の政治家や党員たちからも支持の声が広がっている。トランプ氏は、一種の英雄となったと表現できるだろう。もちろん、こういった事件は民主主義の理念に照らせば絶対に起こってはならないが、今回の銃撃事件はトランプ氏にとって追い風となったことは間違いない。これまでトランプとバイデンの高齢者同士の決戦に幻滅していた無党派層からも、トランプ氏の姿に感銘を受け、支持が広がる可能性がある。

一方、劣勢が伝えられるバイデン大統領にとってはさらに厳しい状況となった。これまで選挙戦は主に互いに批判し合う形で展開されてきたが、トランプ氏にはバイデン大統領を批判し続ける余裕が残されている一方、バイデン大統領にはその余裕がなくなりつつある。銃撃事件を受け、バイデン大統領はトランプ氏の無事を安堵し、政治的暴力は民主主義国家では許されないとの姿勢を国民に示したが、それは同時に「政治的暴力に負けずに血を流しながらも拳を挙げた政治家をまだ非難するのか」というプレッシャーを与えることになった。今回の銃撃事件により、バイデン大統領はトランプ氏を批判しづらくなったことは間違いない。

米大統領選まで4ヶ月を切る中、今後懸念されるのは大統領選を巡るさらなる混乱と米国の分断だ。今後、トランプ氏の優勢が鮮明になれば、トランプ氏に反対する第2、第3のトーマス・クルックスが現れる可能性があり、大統領選を巡る情勢がさらに混乱する恐れがある。仮にトランプ氏の命を脅かすような事態が起これば、白人至上主義組織などの過激なトランプ支持者たちがバイデン陣営への暴力をエスカレートさせ、米国の分断がいっそう進む危険がある。我々は2021年1月の米国連邦議会襲撃事件を忘れてはならない。今日の米国政治は多様性が受け入れられるような環境ではなく、善か悪かという二極化が進んでいる。

◆治安太郎(ちあん・たろう) 国際情勢専門家。各国の政治や経済、社会事情に詳しい。各国の防衛、治安当局者と強いパイプを持ち、日々情報交換や情報共有を行い、対外発信として執筆活動を行う。

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