マイホーム購入 「たぶんイケると思います」自信満々な人ほどローン破綻 2馬力のワナで返済苦に陥る家庭も

マイホーム購入は、多くの人にとって、お金と夢もかける一生に一度の大きな買い物だ。不動産の仲介業者を訪れて物件探しをしているときは、さらに夢が膨らんで至福のときかもしれない。だが、そんなお客さんを冷静に見つめて、ときには敢えて「今買わないほうがいいですよ」「本当に必要ですか?」と「待った!」をかけるのは、不動産仲介業の株式会社グラウンド社長・鈴木宏治さん。業界の常識に逆らうような態度をとるのは、お客さんに対する鈴木さんなりの愛情だという。

■ローン返済が焦げ付いた人の末路を知っているからこそ

建売住宅や分譲マンションを購入する際、銀行でローンを組んで月々返済していくのが一般的な買い方だ。ところが夫婦2人の収入を合わせてやっと返済できるような無理のある計画だと、いずれ破綻してしまうケースが多いという。

鈴木さんから見た、ローンが破綻する人のパターンがあるそうだ。

「相談に来られた段階で『この条件で、僕に払えますかね?』って、ドキドキしている人はまず大丈夫です」

不安であるが故に慎重な計画を立てるため、絶対とはいいきれないまでも「まず大丈夫です」という。逆に危険な匂いがするのは「今の収入でいけるでしょ!」と自信に満ちている人だそうだ。

「相談に訪れた時点で奥さんが働いているから、夫婦2人合わせた収入をアテにしています。でも子供ができたら、奥さんはしばらく働けません。しかも車のローンとカードでの借り入れもあるのに、根拠なく『たぶんイケると思います』という人は、だいたい破綻します」

返済が苦しくなってきた初期の段階で銀行に実情を相談すれば、利息分を払いながら待ってもらえる場合があるという。だが、滞納を続けて督促状も無視し続けると、物件を明け渡す羽目になる。

「住宅ローンの他にも自動車ローンを組んでいたり、複数の消費者金融からも借り入れがあったりすることが多いです。訪問してみると郵便受けがパンパンに詰まっていて、数社から督促状も来ています。奥さんと子供は出ていってしまい、他にアテのない旦那さんが1人で住んでいます。そういう家は中が荒れてることが多くて、ゴミ屋敷かその寸前の酷い状態になっています」

■なかなか売らないのはお客さんの幸せを願ってのこと

鈴木さんはかつて弁護士を目指していたが、10回目の司法試験で断念。就職先を探していたとき、知人から「不動産業は儲かるらしいよ」という話を聞いて、不動産仲介会社に営業職で入社した。2012年3月、34歳にして人生初の就職だった。

マイホームを購入するのは、多くの人にとって一生に一度あるかないかのビッグイベントだ。だから夢を膨らませつつも、一方で慎重にもなっている。営業マンは、そのようなお客さんを買う気にさせるためのセールストークを磨くのだという。

「営業ノルマがあって、物件を売らなければいけないし、手数料を取って会社に入れないといけないわけです」

やがて鈴木さんの胸に、違和感が芽生え始めた。

「いろいろなお客さんと話していると、この人は家を買わないほうがいいとか、今じゃないよなと感じることがありました」

このお客さんの収入では、いずれローンが破綻するかもしれないことが予見できるのに、それでも売るのかという疑問が湧いたという。

「たとえば自分が心からお勧めできない商品を、今買わないと損ですよとトークしても、はたして相手に響くのかなと思ったわけです」

胸にくすぶる疑問と戦いながらも、仕事として家を売っていた鈴木さん。勤め先は長時間労働が当たり前のいわゆるブラック企業だったこともあり、入社2年で辞めて株式会社グラウンドを設立。売り主から手数料を取って買い主からは取らずに物件を紹介する「ゼロ仲介」というサービスを始めた。

夢を叶えたはずのマイホーム購入でかえって不幸に陥ってしまう人を多く見たり、かつて一緒に司法試験合格を目指して弁護士になった仲間からも、ローンがらみの相談が多いという話を聞いたりして、自分が売った商品で不幸になる人ができるのはイヤだという。

「家が欲しいという人を、止めることはないんですよ。どうしても欲しいなら、買えばいいと思います。買ったあと、もしかしたらローン返済を頑張ってハッピーな生活になるかもしれない。ただ、その瀬戸際にいる人が悩んでいて、僕も買わないほうがいいなと思ったら『今買わなくてもいいのでは?』という話をする感じです」

鈴木さんを訪ねた人の多くが「不動産屋さんなのに、なかなか家を売ってくれない」という印象をもつそうだ。だが、それも、鈴木さんがお客さんの幸せを願ってのこと。誰も幸せにならない商品は売りたくないのだ。

(まいどなニュース特約・平藤 清刀)

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