安藤忠雄氏設計の名建築が…“猫の楽園”に!? 鉄道模型の世界で遊ぶ猫たちで有名な「ジオラマ食堂」に新展開
鉄道ジオラマの上で猫が遊んだり鉄道模型を「ハグ」したりする様子を見ながら、食事を楽しんで猫と触れ合うこともできる「ジオラマ食堂」が7月20日、大阪文化館・天保山(旧サントリーミュージアム)2階に新店舗をオープンさせた。世界的に高名な建築家・安藤忠雄氏が設計した建物に、オープニングスタッフとして5匹の猫が着任。鉄道ジオラマも、新店舗のために製作されたという。オーナーの寺岡直樹さんに聞いた。
■旧サントリーミュージアムの空きスペースを…
ジオラマ食堂は、大阪市天王寺区寺田町で「鉄道ジオラマの上で猫が遊んでいる食堂」としてSNSで話題になり、多くのメディアに取り上げられた。コロナ禍が落ち着いてからは、海外から訪れる観光客も多く訪れるようになったという。また、食堂の営業と並行して保護猫活動にも取り組んでおり、里親とマッチングする譲渡会も行われている。
寺田町の店舗のほか、三重県伊勢に「伊勢ジオラマ食堂・にゃんこキングダム」を展開していたが、今年5月に店舗物件の契約終了に伴って閉店。猫たちの新しい行き場を探していたところ、折しも大阪文化館の理事長から「和の文化と猫を世界に広めませんか?」との打診があった。大阪文化館は現在、株式会社日中文化経済事業団によって運営されており、事業団の本部が寺田町にあることからジオラマ食堂のこともよく知っていたという。
店の経営は大阪文化館が行い、ジオラマ食堂が運営する形で契約がまとまって、約2カ月かけて準備。7月20日に「大阪文化館・ジオラマ食堂 Cats Wonderland」(以下、Cats Wonderland)としてオープンした。
店内のジオラマにはカウンター席が設けられて、線路の上を走る鉄道模型とそれを追いかける猫を間近に見られるほか、2人掛けと4人掛けのテーブル席が2セットずつ用意されている。また正面には、大型モニターが設置されたステージもある。
大阪市港区の天保山ハーバービレッジにある「大阪文化館・天保山」は安藤忠雄氏の設計で、1994年11月3日に「サントリーミュージアム天保山」として開設された。地上9階(一部10階)、地下1階のミュージアムで近代美術の収集・展示が行われていたが、入館者の低迷などを理由として2009年に閉館。2010年に土地と建物が無償で大阪市へ寄贈された。2023年4月1日からは、株式会社日中文化経済事業団が運営している。
■ジオラマを新たに製作 5匹のオープニングスタッフでスタート
Cats Wonderlandに設置するジオラマは当初、伊勢から移転させようとしていたそうだが、「いちど分解すると、元通りに戻せないことが分かった」とのことで断念。Cats Wonderlandのために、あらためて製作したのだという。ただ、伊勢のジオラマにあった安土城のミニチュアは運ばれて、Cats Wonderlandのジオラマのいちばん高い場所に設置されている。
7月20日のオープン日は、大々的なメディア発表会のようなことはせず、静かにスタートした印象だ。スタッフ猫も、もともと伊勢の店舗にいたうち互いに仲の良い5匹を選んでCats Wonderlandへ引っ越してきたそうだ。
「スタートから飛ばしすぎると、息切れします。猫も、この5匹からのスタートです」
寺田町のジオラマ食堂とCats Wonderlandの、コンセプトの違いを聞いてみた。
「寺田町の店は保護施設を兼ねています。Cats Wonderlandでは、猫と触れ合って遊んでいただくと同時に『和』の文化も発信したい。その一環で、ステージではインバウンド向けに着物ショーをやります」
「和」の文化を発信するコンセプトに合わせるように、Cats Wonderlandの店内には書道家・猫作家として活動する野上恵子さんの、猫の絵と書を合わせた作品が1年間展示される。その作品で注目すべきは、猫と一緒に描かれている満月や三日月が、細かな文字であること。しかもその文字は「吾輩は猫である。名前はまだない」から始まる、夏目漱石の「吾輩は猫である」の冒頭部分が書かれてあるのだ。
さらに、書は軍手で書いたという。
「細かい文字は筆で書きますけれども、書は軍手に墨をつけて書いています」
野上さんの書も一見の価値ありだ。
先述したように、主役の猫たちは、今はオープニングスタッフとして5匹のみ。ジオラマに上って遊んだり、広い店内を歩き回ったり、あるいはステージ中央の大型モニターに映し出される仲間の姿に見入ったりして、思い思いに過ごしている。ただ、伊勢の店舗を閉じてからしばらくの間、寺岡さんの知人に預けられていた期間もあって、Cats Wonderlandへ引っ越してきてから日が浅い。まだ少し慣れない様子が伺えた。だが、伊勢で接客を経験してきた子たちだから、すぐに慣れてくれるだろう。
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)