「普通のメイクとは逆」自衛隊の“特殊メイク術” 顔の凹凸感をなくし、山野に溶け込むプロの技
「自衛官のメイクアップ!」と題して、自衛隊東京地方協力本部(以下、東京地本)がこのほど、Ⅹに投稿したショート動画が話題になっている。閲覧数43万件を超え、リポストも2600件を超える勢いだ。その動画は迷彩メイクの手順を追ったもので、顔面の凹凸をなるべく目立たなくして、山野に紛れて敵から発見されにくくする特殊なもの。投稿では、メリハリある立体顔に見せるような「普通のメイクとは逆」とコメントしている。自衛隊独特のメイク法はどんな状況で行い、どのような効果を狙っているのか、東京地本に聞いた。
■山野で肌の色は思いのほか目立つ
陸上自衛隊は、職種によって頻度に差はあるが、戦闘を想定した野外での訓練を行う。迷彩柄の戦闘服に身を包み(真夏でも長袖)、しかも周囲の草木を身に纏って敵の眼を欺くための「偽装」も施す。
その際、どうしても目立ってしまうのが顔面である。山野で顔面だけ「素」の状態で露出していると、そこだけ白く浮かび上がって目立ってしまう。
そこで自衛隊が採用している迷彩用顔料、いわゆる「ドーラン」と呼ばれるメイク用品の出番となる。戦闘服の胸ポケットに収まるコンパクトな容器のフタを開けると、4分割された区画に黒・黄・茶、そして陸上自衛隊の標準色であるOD(Olive Drab/オリーブ・ドラブ)の顔料4色が入っている。これを指で取り、フタの裏についている鏡を見ながら、顔料を塗っていく。感触は、ものすごーく硬い絵の具みたいなものをイメージすれば近いかもしれない。伸びは悪くない。
「基本的な塗り方は、鼻や頬などの高い部分を暗く、低い部分を明るい色に塗って凹凸感をなくします」
そうすることで、一見しただけでは「人の顔」と認識されにくくなるという。また露出していれば、首筋や耳にも隙間なく塗る。
自衛隊では、訓練を始めることを「状況に入る」という。個人が身に着ける装具や武器などの準備を整える際、すなわち状況に入る前にはドーランによる迷彩メイクも仕上げておくことが多い。当たり前のことだが、女性自衛官も同じメイクをする。
■俺の顔に泥を塗りやがって
筆者も1980年代の前半に、陸上自衛隊に入隊していたことがある。その当時、まだドーランはなかった。だからといって顔面をノーメイクで露出していたわけでは、もちろんない。携帯円匙(えんぴ)という小型のシャベルで地面を少し耕し、水を加えて泥をこね、それを顔面に塗った。お互いに塗り合いをしながら「俺の顔に泥を塗りやがって」と冗談をいい合ったものだ。
ドーランがいつから使われ始めたのか、はっきりした時期は分からない。だが、ドーランが使われるようになって、塗り方が意識されるようになったといわれている。
動画で紹介されている塗り方のほかにも一例を挙げると、使用するのは黒一色とし、額の左上から顎の右下にかけて黄色で指2本幅のラインを入れる。ドーランを塗ると顔が分からなくなるから、塗り方を統制しておくことで、お互いに味方を識別出来るわけだ。
ちなみに、ドーランの塗り方についてとくに時間を設けて教育されることはないようで、初めは見よう見まね、あるいは先輩から訓練の都度教えてもらうのである。
こうして迷彩メイクをしっかりつくり込んでも、汗をかくと流れ落ちてしまう。そのため隙間時間を見つけては、メイク直しをしなければならない。とくに夏は大量の汗をかく。うっかり顔を拭ってしまい、せっかくのメイクが台無しになるという悲劇は、自衛官なら誰もが経験しているはずだ。
さて、訓練が終わったら、このメイクを落とさねばならない。特別な方法があるわけではなく、市販のメイク落とし、ウェットティッシュ、石鹸で洗うなど、各自それぞれの方法で落としているようだ。
ふつうに一般人として暮らしていて果たして需要があるのか分からないが、ドーランはネット通販やミリタリーショップなどで購入できる。「クラシエ カモフラージュメイク [ファンデーション]」で検索すれば、すぐに見つかる。
今回、東京地本がドーランの塗り方について投稿した狙いは「少しオシャレ感をだしてみて、普段とっつきにくい自衛隊のメイクを少しでも身近に感じてもらえたらなと思い投稿しました」とのこと。
目立つとは逆の「目立たないためのメイク」は、どのように感じられただろうか。
◇ ◇
▽Ⅹ/自衛官のメイクアップ
https://x.com/tokyo_pco/status/1809137957988938122
▽自衛隊東京地方協力本部
https://www.mod.go.jp/pco/tokyo/
https://www.instagram.com/tokyo_pco/
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)