「軽のスズキ」に陰りが見えた1980年代…起死回生を托された「ワゴンR」 ヒットモデル「ソリオ」も派生したロングセラーの歴史
1993年に初代が発売されてから31年ものロングセラーモデルとなったスズキ「ワゴンR」。近年では、さらなるヒットモデル「ソリオ」も派生させた小さな名車です。
ただし、今でこそ見慣れたワゴンRですが、登場以前の市場では「軽トールワゴン」というカテゴリーはなく、登場時のインパクトは実に大きかったことを覚えています。
スズキが相当な力を込めて開発したワゴンRの31年の変遷を追います。
■軽自動車シェアが落ち、起死回生を図るべく開発された
今も昔もスズキといえば、「アルト」や「ジムニー」といった「軽自動車の名車を出すメーカー」として知られていますが、1980年代には一時スズキの軽自動車市場のシェアは36.5%となり、占拠率が徐々に低下する時代でした。
「軽自動車ナンバーワンメーカー」として起死回生を図る必要に迫られたスズキは、それまでの軽自動車の概念を覆すべくワゴンRの開発に着手。
車高の高いスタイリッシュなボディを採用しながら、背もたれを立てたシート設計、大型ドア採用などで実用性を高め、1993年、満を持して初代ワゴンRを発売しました。
この初代ワゴンRは後にインタークーラーターボ車などをラインナップした一方、その実用性の高さからスズキ初の福祉車両モデルにも転じられました。
■軽自動車初の天然ガスモデルもあった2代目
1998年10月に施行された軽自動車規格改定に対応した2代目ワゴンRが同年に登場。初代のテイストを踏襲しながらも、より丸みを帯びた柔和なデザインになりました。
また、翌年の1999年には軽自動車では世界初となる天然ガス(CNG)モデルの「ワゴンR CNG自動車」も登場。
前述の福祉車両モデルと合わせて考えれば、スズキの「社会貢献への取り組み」はワゴンRで実践されていたように感じます。
そして、2003年には3代目が登場。より汎用性の高さを追求した一方、走りを追求した「RR」や「スティングレー」といった精悍な派生モデルも発表。ワゴンRにスポーティさを求めるユーザーの間で支持を得ました。
■実用性を高めながら、環境への配慮をより一層意識
そして2008年には快適さ、経済性を高めた4代目が登場。4代目で追求した機能は、2012年に登場する5代目でさらに高まり「軽ワゴン低燃費ナンバー1」を目指すことになりました。環境への配慮と便利で楽しい車の両立を目指し、スズキの最新技術が投影されました。
さらに2017年に登場した6代目は発進時にモーターのみ駆動するマイルドハイブリッドを搭載。軽量化・高剛性双方を実現させました。この派生モデルとして2021年にはワゴンRスマイルも登場。広い室内空間と高い機能性、そして安全・快適な乗り味全てを実現させました。
■ソリオはワゴンRがルーツ
前後しますが、スズキのソリオは元々初代ワゴンRからラインナップされていたワゴンRワイドがルーツ。
2000年に2代目ワゴンRの派生モデルとしてワゴンRソリオが発売され、2005年以降にソリオとして独立していきました。ユーザーの中にはワゴンRとソリオのどちらに乗るべきか悩む人が多いようです。
■実用性の高さに加え「遊び」に使いたくなる「軽の名車」
ここまでに紹介した通り、ワゴンRはその実用性の高さから31年ものロングセラーに至っているわけですが、筆者個人的に見たワゴンRは「遊びに使いたい軽自動車」のイメージです。優れた実用性もさることながら、小回りのきくサイズ感と「RR」「スティングレー」といったスポーティなモデルをベースに、よりパワフルに走りを楽しみたいモデル。実際、ワゴンRを使った走行会やレースなども盛んで、こういった遊び方ができるのも大きな魅力のように感じます。
いつの時代もより高い実用性、安全性と合わせて、環境に配慮した機能も存分に取り入れてきたワゴンR。アルト、ジムニーに並ぶ、スズキが打ち出した「小さな名車」です。
(まいどなニュース特約・松田 義人)