多頭飼育の繁殖場から救出されたシェットランド・シープドッグ 気になる腫瘍 「たとえ悪性であっても受け入れます」里親希望者の決意は揺るがなかった

2023年秋、熊本県内の山中に多頭飼育されている繁殖場がありました。一時は100匹を超える頭数で、どのワンコも適切な世話がなされているとは到底言えない状況でした。それでも経営者は小屋を「シェルター」と言い張り、劣悪な飼育を続けていました。

地元の個人ボランティアが経営者と何度も交渉を重ね、向こう2年ほどでの廃業の約束を取り付けました。また、順次この繁殖場からワンコたちを保護することも合意に達し、まずは20匹の命を救うことに取り付けました。

■保護した20匹のうち特に健康状態が悪かったスズカ

個人ボランティアは横のつながりを使って九州エリアはもちろん、各地の保護団体と連携。保護した20匹の命を各団体に託しました。

20匹のうち、特に健康状態が悪かったシェットランド・シープドッグのシニア犬・スズカは、福岡県のボランティアチーム、わんにゃんレスキューはぴねす(以下、はぴねす)が引き受けることにしました。

重い皮膚病を抱え、毛は抜け落ちボロボロ。お腹に大きな乳腺腫瘍がありました。はぴねすのメンバーは保護後、すぐに体をきれいにして、動物病院で検査をした後、手術を実施しました。

■口元のデキモノが悪性腫瘍の可能性も…

スズカははぴねすのメンバー宅で過ごすようになりました。保護から半年ほどでみるみる体調は改善され、合わせて自我も出すようになり、メンバー宅にいるワンコにはちょっかいをかけ始めるほど元気になってくれました。

この間、はぴねすに別のワンコの里親希望の申し出をした山梨県のHさんという方がいました。お目当てのワンコは別の里親さんの元で幸せをつかむことになったことを受け、Hさんはスズカの里親希望を申し出てくれました。

「良かった。元気になってくれたスズカが、ついに幸せをつかむ日が来た」とメンバーは喜びましたが、この時期、スズカの口元にあったデキモノがどんどん大きくなっていき、まずは切除を実施しました。ところが、このデキモノは悪性腫瘍である可能性もあるという診断で、病理検査へと進むことになりました。

■「悪性ならなおのこと迎え入れたい」と里親希望者さん

Hさんは、山梨県からはスズカがいる福岡県に来てくれました。スズカの悪性腫瘍の可能性を話さないわけにはいきません。

メンバーがスズカの健康状態と今後考え得る状況をHさんに全て伝え「譲渡を白紙に戻してくれても構いません」と伝えました。すると、Hさんは「大丈夫です。何があってもスズカを受け入れたいです。仮に悪性腫瘍であったとしても、そうであるならばなおのこと、我が家で穏やかな余生を送ってほしいと思っています」と静かに答えました。

スズカが思いっきり遊べるように山梨県の自宅を新築中で、庭にはスズカのために芝を敷き詰める計画もしていると言います。

ここまでスズカのことを思うHさんに、メンバーは胸に熱いものが込み上げました。

■約5カ月後に迫る「第二の犬生」を待つ日々

その後、スズカの病理検査の結果が出ました。結果は「良性」。スズカを思うHさんの元に、健康な状態で送り出せることになりました。

Hさんの自宅は現在もなお建築中で、約5カ月後に完成予定。自宅が完成するまでは、はぴねすの元で世話を受け続けますが、「ずっとのお家」が約束されることとなりました。メンバーは小躍りするほどに喜びました。

劣悪な繁殖場では味わったことがない、スズカの幸せな日々はもうすぐ訪れます。

「その日まで、少し太った体をダイエットして、新しい環境でいっぱい遊べるように体力をつけようね」とメンバーは今日もスズカの世話をし続けています。

(まいどなニュース特約・松田 義人)

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