後ろ脚が欠損したジャック・ラッセル・テリア 医療ケアを受けられず繁殖犬として酷使された 「これから楽しいことを一緒に見つけようね」
3歳ほどのワンコは遊びたい盛り。元気いっぱい駆け回り、飼い犬であれば信頼のおけるパートナーとして人間にべったり甘えることが多いと思います。しかし、東海エリアのとある繁殖場にいたジャック・ラッセル・テリアのオス、優来(ゆら)は違いました。
哀しそうな表情を浮かべ、人間にできるだけ目を合わさないようにジッと耐えていました。そして、右後ろ脚は一部欠損。子犬の頃、繁殖場内で成犬同士のけんかの巻き添えで失ったようでした。
■優来が失った右後ろ脚をブリーダーは「取れた」と言った
繁殖場の90歳近いブリーダーは、優来が失った右後ろ脚を「取れた」と言いました。物ならその言い方も正しいことでしょう。しかし、優来は血の通ったワンコです。「取れた」というまるで物を指すかのような表現に違和感を覚えました。
そして、優来は右後ろ脚を失い満足な医療ケアを受けられなかったばかりか、繁殖犬として肉体を酷使されていました。
後に繁殖場から優来を引き出すことにした静岡県の保護団体、アニマルフォスターペアレンツ(以下、アニマルフォスター)のメンバーは、悪びれることのないブリーダーにはらわたが煮えくり返るような以下を覚え、悔し涙がこみあげました。
■「今度は僕に何をさせるんですか?」
優来の哀しそうな表情や、人間を信用できずできれば関わりたくないといった態度の理由がよくわかりました。
アニマルフォスターのメンバーは、優来に努めて優しく声をかけるようにし、もう一度人間を信じてくれることを願い、団体のシェルターで日々献身的に世話をすることにしました。
しかし、シェルターに来てから数日、優来はエサをいっさい口にせず、端っこのほうにジッと固まり人間と目を合わそうとはしませんでした。
「今度は僕に何をさせるんですか?」「また、怖い思いや嫌なことをさせるんですか?」。そう言わんばかりの様子で怯える優来。心の傷はかなり深そうに映りました。
■まずは信頼関係構築
「大丈夫。もう怖いことなんてないからね」「優来のペースで良いから、これから一緒に楽しいことを見つけていこうね」
メンバーはそう声をかけながら接し続けました。すると、少しずつ優来がエサを口にしてくれるようになり、表情も柔らかくなっていきました。
ただし、完全に心を開いてくれたとは言えません。そのため、優来の里親募集はまだまだ先になりそうです。今後、優来が心を許してくれるまで、どれだけ時間がかかるかはわかりません。メンバーは「優来はこれまでに怖く苦しい思いをしてきている分、よりじっくり時間をかけて信頼関係を紡いでいきたい」と言います。
いつの日か優来の表情に笑顔が浮かび、そして優来と人間の間で必ず気持ちを通わせられる日が訪れることを願うばかりです。
(まいどなニュース特約・松田 義人)