ノーヒットノーラン達成!戸郷と大瀬良…その名字に隠された歴史と故郷のルーツ
プロ野球のノーヒットノーランは、昭和後半から平成初期にかけてはめったに出ないものだったが、近年は毎年複数人の達成者が出るようになった。今年もすでに、セリーグで2人の投手が達成している。
まず1人目は5月の阪神戦で達成した巨人の戸郷翔征投手。
この「戸郷」という名字はかなり珍しく、広島県と宮崎県の2カ所にある。このうち、広島県の「戸郷」のルーツはわかりやすい。広島県庄原市に戸郷川という川が流れており、その南西岸には戸郷町という地名もある。
この付近は、中世に戸河(とかわ)と呼ばれており、これが後に「戸郷」に変わったようだ。現在でも広島県の「戸郷」は、庄原市と隣の三次市にあり、ここがルーツであろう。
一方、戸郷翔征投手の出身地である宮崎県の「戸郷」は別ルーツとみられる。
隣の大分県に「都甲(とごう)」という大分独特の名字がある。ルーツは豊後国国東郡都甲荘(現在の大分県豊後高田市)という地名で、豊後の古代氏族である大神(おおが)氏の一族が都甲荘を開発した源経俊の女婿となって都甲氏を称したのが祖という。
鎌倉時代は幕府の御家人となり、戦国時代は大友氏に従うなど、県内では古くから有力な氏族であった。
「都甲」という名字は他県ではあまりみられないが、現在でも大分県内には多い。
そしてこの「都甲」、隣の福岡県では「都合」に変化した。ルーツの地から他の地域に移り住んだ際に漢字を変更するのはよくあることだった。都甲氏の一族は日向にも転出したことがわかっており、その一部が宮崎県で「戸郷」と漢字を変えたものだろう。
もう1人が6月に交流戦のロッテ戦で達成した広島の大瀬良大地投手。
「大瀬良」は全国ランキングで6000位台。珍しい名字というわけではないが、そのほとんどが長崎県に集中しており、長崎県にルーツがあることは間違いない。大瀬良選手も長崎県の出身だ。
地理院地図で探してみると、長崎県五島列島の新上五島町に属する中通島の中央部に「大瀬良」という地名がみえる。実は長崎県の「大瀬良」という名字も、圧倒的に新上五島町に集中している。
新上五島町は、2004(平成16)年に有川町、上五島町、若松町、新魚目町、奈良尾町の5町が合併した誕生した。このうち、「大瀬良」地名があるのはかつての新魚目町。「大瀬良」という名字も新魚目町では6番目に多い名字で、ここがルーツであることを示している。
因みに、「大瀬良」の近くには「小瀬良」という地名もあり、新上五島町には「小瀬良」さんも多い。
◆森岡 浩 姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部卒。学生時代から独学で名字を研究、文献だけにとらわれず、地名学、民俗学などを幅広く取り入れながら、実証的な研究を続ける。NHK「日本人のおなまえっ!」にコメンテーターとして出演中。著書は「47都道府県名字百科」「全国名字大事典」「日本名門名家大事典」など多数。