「利上げ」は家計を助けるか苦しめるか?… 金利上昇や、円高を通じた暮らしへの影響は

7月末に開かれた日本銀行の金融政策決定会合で、0.1%から0.25%への利上げを目指す方針が発表されました。発表の後、日経平均株価が過去最大の下落となったこともあり、新聞やテレビでも大きく報じられています。

実は利上げは、さまざまな形で私たちの生活に影響を与えます。たとえば、預金・住宅ローン金利が上がり、利息の受け取りや返済額が増えます。さらに利上げは円高を通じても、生活費や企業の取引に影響を与えるのです。円高によって、光熱費をはじめとした生活費はおさえられるでしょう。一方で、円高は輸出に不利であると言われますが、近年の日本では議論の余地があります。日本銀行の政策が今後どう進むのか、これからも注目が必要です。

■利上げは預金・住宅ローン金利を通じて生活に影響

7月末に、日本銀行は政策金利を0.1%から0.25%へと引き上げました。これは、日本銀行や金融機関どうしでお金を貸し借りするときの金利(無担保コールレートといいます)を、0.25%へ上げるよう政策を進めることを意味しています。見込みどおり利上げが進むと、預金・住宅ローン金利や、円高による生活費の変化を通じて、私たちの暮らしに影響をおよぼします。

利上げが進むと預金金利も上がります。メガバンク3行が普通預金の金利を0.02%から0.1%へ引き上げるなど、対応を進める金融機関が出てきました。預金金利が上がれば、わずかではあるものの、私たちの受け取る利息は増えることになります。

利上げとなれば住宅ローンの金利も上がる可能性があります。一部の金融機関では、住宅ローン金利の基準となる金利を引き上げると発表しました。ただし、変動金利でローンをすでに組んでいる家計でも、急に返済額が増えることはまだなさそうです。住宅ローンをめぐる競争は激しく、金利の引き上げを見送る金融機関も多いです。変動金利で住宅ローンを借りている方は、融資を受けている金融機関が発表している金利をこまめに確かめましょう。

■利上げで円高が進むと生活費の負担が小さくなる

利上げによって、円高が進むと考えられます。円高とは、外国の通貨に対して円の価値が上がることです。今回の利上げが発表された後、円高が急激に進みました。7月3日には1ドル=161.75円だったのが、8月5日には1ドル=141.69円に達しています。この1ヶ月で、円の価値が12%以上高くなりました。

円高が進むと、輸入品の価格が下がります。代表的な例は、私たちが日々使っている電気やガスなどのエネルギーです。エネルギーを生み出すために必要な天然資源のほとんどが、海外から輸入されています。円高になると輸入コストが下がり、結果として電気・ガス料金の負担が軽減されるのです。

今年の6月には円安が進み電気代が大幅に上がる、と新聞やテレビで大きな話題になりました。今回の円高が続けば逆に、光熱費などがおさえられて、生活費の負担が軽くなると期待できます。

■利上げによる円高は輸出に悪影響?

円高が進むと輸出企業にとっては不利になるとも言われます。円高になると海外から見た日本製品の価格が高くなり売れゆきが悪くなる、というのが一般的な見方です。

しかし最近のデータを見ると、円高だから輸出が減ると必ずしも言えない状況です。日本円の実質的な価値を表す「実質実効為替レート」を見てみましょう。1995~2022年にかけて、価値が半分近くになるほど円安が進んでいます。輸出と輸入の差である「純輸出」の量もたどってみましょう。2000年代までは、純輸出が大きくなっており、輸入以上に輸出が増えてきました。それに対して2010年代以降になると、純輸出が増えていません。輸入ほどには輸出が伸びていないことが分かります。

「円安が進むと輸出が活発になる」とよく言われますが、少なくとも日本経済全体では、その傾向が成り立っていないようです。逆に言えば、円高が進んでも輸出に悪い影響があるかは明らかではありません。

なぜ円高になっても輸出が変わらないかは、生産拠点の海外シフトや日本製品の競争力低下など、さまざまな原因が考えられます。海外での現地生産を強化していれば、円高が現地での売上や業績に与える影響は小さくなります。日本製品の競争力が低下しているならば、円高や円安になっても需要は変わらないままでしょう。これらの原因がどの程度影響しているのかを明らかにするには、さらなる調査や研究が必要です。

今回の利上げは、私たちの生活に良い効果も悪い影響もあります。円高によって生活費がおさえられるのは歓迎すべきことです。一方で、住宅ローン金利や輸出企業の業績などの動向によっては、よくない影響を受けてしまう人たちもいます。私たちの暮らしに与える複雑な影響もきちんと踏まえたうえで、今後の利上げについて日本銀行は慎重な判断を迫られます。

【参考】

▽日本銀行「時系列統計データ 検索サイト」

▽日本銀行「外国為替市況(日次)」

▽内閣府「2022年度国民経済計算(2015年基準・2008SNA)」

   ◇   ◇

◆新居 理有(あらい・りある)龍谷大学経済学部准教授 1982年生まれ。京都大学にて博士(経済学)を修得。2011年から複数の大学に勤め、2023年から現職。主な専門分野はマクロ経済学や財政政策。大学教員として経済学の研究・教育に携わる一方で、ライターとして経済分野を中心に記事を執筆している。

◆新居 理有(あらい・りある)龍谷大学経済学部准教授 1982年生まれ。京都大学にて博士(経済学)を修得。2011年から複数の大学に勤め、2023年から現職。主な専門分野はマクロ経済学や財政政策。大学教員として経済学の研究・教育に携わる一方で、ライターとして経済分野を中心に記事を執筆している。

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