現役の織り手は元気な90歳…これは美談ではないし、今のうちに買っておくのも違う バトンをつなぐには?織屋の決意

  京都の綴織(つづれおり)工房3代目の「服部 紘樹 / 服部綴工房」(@hiroki__hattori)さんが、Xに投稿した内容が話題になりました。

「絽という少し特殊な織物。

織り手はなんと90歳の方。

未だ現役バリバリで技術向上にも余念なし。

それを写真の外から見守りつつアドバイスするのはなんと95歳の先輩。

長年協力しながら織仕事を続けてきたお2人は信じられないくらいお元気です

 

ってこれ、決して美談なだけではないんですよね(続)」

 画像には、細い縦糸がかかった織り機に横糸を通す瞬間が写っています。織り上がった手元部分は細やかで美しいグラデーションの柄が浮かび上がっています。服部綴工房は12種ある京都・西陣織のひとつ「綴(つづれ)」を織る工房です。今回話題になった織りは、「絽綴(ろつづれ)」という種類で、縦糸を捩りながら織ることで「透け感」を出す、夏の着物や帯でよく使われる織物です。(※綴れではない絽も世の中にはあります)

 投稿は続きます。

「ただでさえ担い手の少ない特殊な織物づくりが、90歳を超える2人によって支えられている。

これはヤバい。

いくらお元気とはいえ、正直明日何が起きてもおかしくない。

仕事を頼めているだけで、奇跡的。

 

奇跡は美しいかもしれないが、いつまでもは続かない。

それを受け入れるか、否か(続)」

「答えはもちろん否である。

 

しかしこういうケースにおいて『まだ職人が織れるうちに…』『まだ物があるうちに…』といった言動を見かける。

つまりは、後先は考えずに今のうちに先取りしておこう、といった態度である。

気持ちは分かるけども。

賛同はできないし、最早してはいけない。(続)」

 希少価値を売りに商売をするようではダメだと考えた服部さんは、今、継ぎ手がいないという状況への解決策として、自らが織り方を習い、次の世代に渡せる人になることを決意します。

 実は服部さんは、8年前に一般企業から家業へ移り綴織の基本を学びました。そのため、綴を織ることはできるものの、試し織りや試作品制作ができる程度で、商品を織るレベルの知識や技術はまだないと言います。

 そのため絽についても、「まだ知識経験の足りない自分が絽についての全部を継承できると過信しているわけではありません。今の職人さんが現役でいられるのが残り数年という中で、自分自身を一旦介して、そこから長期的に織ることのできる次の世代の方々に伝えていく。もちろん若い世代だけでなく、現役の経験者にも協力を仰いでいくということが私にできることで、これからやるべきことだと考えています」と話します。

 決意してすぐに、90歳の織り手さんに基礎から教えてもらいながら、織りの練習を始めた服部さん。まだまだ氷山の一角ですが、一歩ずつ進めていくと決意表明をしています。

 ◇ ◇

 服部綴工房は、「爪掻本綴」の帯のみを制作する工房です。爪掻本綴は、織の全工程にかけて機械を使わず全て手仕事で織り進めます。そのため爪を縦糸に合わせてギザギザに整えて、爪を道具として使うことで知られています。

 服部綴工房が絽綴の製織を、もともと社外の職人さんとして依頼していたのは現在95歳の職人さんです。その人が現在90歳の職人さんに技術指導をおこない、現在はその人が95歳の職人さんから助言を受けながら商品を織っています。

 絽は、縦糸を捩じりながら織ることで透け感が出せますが、そのために綜絖(そうこう)という縦糸を上下させる専用の装置を使います。綴織の職人さんが絽を織るには、綜絖を取り扱うための知識や技術が必要になり、織り方も特に柄の部分は通常の綴織とは異なるため専門性が求められます。服部さんは、織りの基本的な技量があれば、専門的な部分を身につけることで織れるようになるのではないかと期待しています。

 ◇ ◇

 服部さんの投稿を受けて、絽の織り手の孫である「いぬずき公式アカウントのなかの人(@mikoto_191022)」さんも、現状を知ってほしいと引用ポストしました。

「もし、今回のことでこういった分野に興味を持ったり、挑戦してみたいという方がおられるのであれば、実際の現場の生の声を聞いてほしいと思います。それこそ、遠方でも繋がることができるツールがいまは多くあるのですから」と、今だからできる継承の方法があるのではないかと期待しています。いぬずきさんにお話を聞きました。

──お祖母様と後継者について話をされたことはありますか?

 職人がみな高齢で、このままでは廃れてしまうだろうと話したことはあります。祖母は明言こそしませんが、今自分が使っている道具などを誰かに継いでほしい思いはあるようです。孫の私が望めば技術も継承する努力を惜しまない人ではありますが、現状、それが難しい状況です。

──いぬずきさんは、お祖母様の帯を着用されることもあるのですか?

 祖母は仕事として帯を織っておりますので、それらが【商品】となった時には私には少々値が張ります。ただ、祖母が私のために織ってくれた金糸の帯はいずれ機会があれば使おうと思っています。上等すぎて、普段使いには向かないので。いつかくるその日の私は自分の装いを誇りに思うことでしょう。

──90歳になっても現役で織の仕事をされているお祖母様は、いぬずきさんにとってどんな存在ですか?

 とても胆力があり、芯が強く、山の動植物のことをたくさん私に教えてくれた、スーパーばあちゃんです。祖父が亡くなって30年間、京都の家で1人で暮らし、帯を織り続けています。たまに滋賀に遊びに来ることもありますが、仕事があるから、育てている植物が心配だからと長居はしません。でも、休みの日には「ばあちゃんとデートするか?」と誘ってくるお茶目な一面もあります。私の誇りであり、人生の目標でもあり、大好きなばあちゃんです!

 絽綴を含む爪掻本綴の職人としての道に興味がありましたら、詳細は服部綴工房まで。

(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・太田 浩子)

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