1975年の発足以来、世界最大の同人誌即売会として注目を浴びるコミックマーケット（以下「コミケ」）。

その名の通り出展物は漫画、アニメをもとにしたコンテンツが主流だが、今SNS上ではそんなコミケにひっそり存在する「評論・情報コンテンツ」が大きな注目を集めている。

きっかけになったのは「コミケってエッチな本を売る場所ってイメージがあるけど個人的には評論コーナーがおススメ。昔買った本だけど、日本全国で売ってる醤油を集めて味見した同人誌とか面白かったよ。（C104月曜東3ア12a）」と紹介したのは渡瀬ゆずさん（@kamo_kamos）の投稿。

渡瀬さんに話を聞いた。

ーー評論コーナーに注目するようになったのは？

渡瀬：たまたま友人にコミックマーケットに連れて行ってもらったのがきっかけです。アニメや漫画を題材にした二次創作が多かったですが、残念ながら私は元作品が分からず…。そんな中見かけたのが評論・情報誌コーナーでした。手に取ってみると本屋さんにはないマニアックなテーマを題材にしているものが多く面白かったです。

ーー醤油本以外にも印象に残ったテーマは？

渡瀬：個人の旅行記をオリジナルのキャラクターを踏まえて漫画風にしたもの、漫画風で紹介した料理のレシピ本などがあったと思います。私は理系出身なのですが、研究者の日常を描いた漫画なども面白かったです。

ーー反響への感想を。

渡瀬：多くの方に興味を持っていただけてうれしく思います。最近は本を読む方は減っていますが、本屋さんに行くと意外な本に出会えることは多いです。コミケもそんな場所だと思います。作者の方と交流できるのも魅力の一つです。もし機会があったら行ってみてください！

◇　◇

渡瀬さんの投稿により特に反響を得た『醤油手帖 Vol.3　～たまごかけご飯専用醤油編　其の弐～』の著者でライター、醤油研究家の杉村哲さん（mu_mu_）にも話を聞いた。

ーーこの本はどういった内容ですか？

杉村：2012年12月31日に開催されたコミックマーケット83で出した本で、全国のたまごかけご飯専用醤油を20本紹介するというものです。其の弐とあるように、1巻目があります。

コミックマーケット81で出した『醤油手帖　たまごかけご飯専用醤油編』が非常に好評だったのと、そこで20本の醤油を紹介したのですが、まだまだたくさんたまごかけご飯専用醤油があったので、それらを紹介する『其の弐』を作成いたしました。

ーー醤油をテーマにしたのは？

杉村：単に醤油にハマっていたからです。元々は塩にハマっていたのですが、そんな折にたまたま明石へ祖母のお見舞いに行った際に出会った魚醤がありました。味わってみると「醤油の味の幅は、塩の味の幅よりももっとずっと広いのでは」と。そうして醤油を集めるようになり、さらには醤油は味噌と並んで日本の食の味わいの根幹を成している調味料ということもわかり、どんどんハマっていったのです。

そんな中で家族や友人からはてなブログを紹介されブログを作ろうとしました。それが今の醤油手帖のブログです。そして、当時日本酒系の同人誌を作成していたアザミユウコさんらと知り合い、「これは本にまとめてみるといいんじゃないか」と勧められたのです。そうして醤油の同人誌を作ることになりました。

ーーコミケに出展した感想は？

杉村：過去に他のジャンルで出展したことがあるものの、調味料というニッチなジャンルがどう受け止めてもらえるかわからなかったので不安がありました。ただ、蓋を開けてみると大反響で、各種メディアに紹介していただいたり、壁サークルも経験させていただきました。さらに、商業出版までさせていただいております。

こういうマイナーなジャンルでも見てくれている方はいて、しっかりと評価されるというのはコミケの素晴らしいところ。「こういうことをやってもいいんだ」とその後の自分の人生を変えるぐらいの衝撃でもありました。

ーー今回の反響について。

杉村：今回のコミックマーケット104にも出展し、『天然信仰』という本を新刊としてプッシュしていました。

告知もほとんどこの本について紹介していたのですが、終わりに近い時間になるほど「醤油の本はありませんか」と聞きに来る人があらわれました。その時は「この時間から入場した方たちなのか」と思ったのですが、終了後に渡瀬さんの投稿の反響によるものだと気づきました。

あまりに反響があったので、また当時のようなスタイルでやろうと、次回のコミックマーケット105では全国の醤油を紹介する小冊子スタイルの本を出す予定です。

◇　◇

ご興味ある方はぜひ次回コミケにご参加いただきたい。

なお杉村さんは日本酒に関する著作もあり、9月26日には以前、アザミユウコさんとの共著として出版した『白熱日本酒教室』の増補版『白熱日本酒教室　増補改訂版』（星海社）を出版。

また、前述の『天然信仰』も、内容はもちろん表紙も『ミスター味っ子』『将太の寿司』などの人気漫画で知られる寺沢大介さんが手がけた力作なので、ご興味ある方は要チェックだ。

（まいどなニュース特約・中将 タカノリ）