米中半導体覇権争いで日本は板挟み 中国の報復警告と規制強化巡り、経済界に広がる懸念

米中の間で先端半導体をめぐる覇権競争がエスカレートする中、ブルームバーグが9月2日に報じたところによると、中国が日本に対して、中国企業への半導体製造装置の販売や関連サービスの提供でさらに規制を強化すれば、報復として経済的な報復措置をさらに厳格化すると警告した。中国政府の幹部は最近日本側と行った複数の会合でこうした警告を繰り返し行ったとされるが、こういった先端半導体をめぐる覇権競争に日本経済界の間でも懸念が広がっている。では、今後この問題はどうなっていくのだろうか。今日、我々はこの問題の本質を認識する必要がある。

まず、今回の中国側からの警告は、近年白熱化する半導体覇権競争の延長線上にある。バイデン政権は一昨年10月、先端半導体が中国軍のハイテク化に転用される恐れから、先端半導体分野で大幅な対中輸出を独自に開始したが、それだけでは十分な効果が期待できないとの判断から、昨年1月に半導体製造装置で世界をリードする日本とオランダに対して同規制に同調するよう要請した。そして、日本は昨年7月から先端半導体の製造装置など23品目を新たに輸出管理の規制対象に加え、中国への半導体輸出規制を事実上開始したが、それは日本がその多くを中国からの輸入に依存する希少金属ガリウム・ゲルマニウム関連製品の輸出規制強化、日本産水産物の全面輸入停止という形で跳ね返ってきている。

特に、ガリウム・ゲルマニウム関連製品の輸出規制強化の際、共産党系の機関誌である環球時報は、中国の主要品の輸出制限に込められた警告に米国とその同盟国は耳を傾けよという社説を公表しており、中国側は米国だけでなく、それに加担する他国も同一視していると捉えられる。この同盟国は間接的に日本を指していただろうが、今回の警告は直接日本側に伝えたものであり、中国の対日圧力という観点では以前よりヒートアップしている。

そして、この問題で我々が一番注視しなければならないのは、中国の行動・反応以上に、米国の意思だ。極論になるが、そもそも米国が先端半導体分野で中国に対して何も規制を仕掛けなければ、こういった問題は生じない。しかし、大国化する中国が先端テクノロジーを駆使し、軍のハイテク化を押し進めれば、それによって将来的には日本周辺を含む米中の軍事バランスが大きく変化し、日本、インド太平洋地域の安全保障にとって大きな脅威となる恐れがある。米国が先端半導体分野で規制を強化する、もっと言えば、半導体を含む先端テクノロジー分野から中国を排除しようとする背景にはこれがあり、太平洋で軍事的覇権を握る米国の安全保障にとっても脅威なのである。

また、これは世界秩序を主導してきた米国のプライドを賭けた戦いでもある。まだまだ経済力や軍事力で米中の差はあるものの、米国は自分達と競争できるようになりつつある相手に警戒感と焦りを強めており、先端テクノロジー分野での優位性を奪われることは、どんな手段を使ったとしても食い止めようとしている。

これを先端半導体の覇権競争に当てはめれば、米国は安全保障や技術優位性の維持などを理由に、今後も中国への輸出規制を先制的に行うだけでなく、日本などの同盟国にも同調するよう最大限の要請を行うことは想像に難くない。日本としては、保護主義的とも言える米国の姿勢にどこまで歩調を合わせるかという問題もあるが、安全保障が絡むケースではそれを拒むことは難しい。しかし、中国側は米国と他国を同一視する姿勢を変えないと考えられ、日本は非常に難しい立場に追いやられることになる。

◆治安太郎(ちあん・たろう) 国際情勢専門家。各国の政治や経済、社会事情に詳しい。各国の防衛、治安当局者と強いパイプを持ち、日々情報交換や情報共有を行い、対外発信として執筆活動を行う。

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