お隣の木が庭に侵入!何度対応を求めても無視され続け…「勝手に切ってもいいですか?」知っておきたい新ルール【弁護士が解説】
東京都郊外に住むSさんは、20年前に建てた自宅で妻と二人で暮らしています。昨年、勤めていた会社を定年退職してからは、地元のボランティアグループに所属し、地域活動を精力的におこなっています。
地域でも顔が知られた存在になってきたSさんでしたが、お隣に住んでいるTさんとはあまり良好な関係を築けていません。というのもTさんは日中は留守にしており、顔を合わせる機会が少なかったからです。
そんななか、Tさん宅に生えている柿の木が大きくなって、Sさん宅の庭にまで枝がせり出てくるようになりました。柿の木のせいで、庭の日当たりも悪くなってしまったので、SさんはTさんに柿の木の枝を切ってくれるように頼みに行きます。
ただ留守の多いTさんは、Sさんが何度訪ねても留守なことが多く、直接話をすることができません。しかたなく封書にして、枝を切るようにお願いするのですが、それでもTさんが行動してくれているような気配はありませんでした。
困り果てたSさんは、自分たちで枝を切ろうと考えます。隣の家の木の枝で、自宅に侵入してきた分を勝手に切ってしまうのは、法律上問題ないのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに聞いてみます。
ー庭にせり出てきた木の枝を切っても問題ないのでしょうか
2023年3月31日までは、隣家の所有者に枝を切ってもらうように依頼することしかできませんでした。しかし、民法233条が改正され、2023年4月1日からは、一定の条件を満たせば枝を切ることができるようになっています。
一定の条件というのは、
1.枝を切るように依頼したのに、相当の期間、対応されなかった
2.木の所有者や、その所在がわからないとき
3.急迫の事情があるとき
の3つです。
今回の場合は、1の条件を満たしていると考えられるため、Sさんは枝を切っても問題はないでしょう。ちなみに枝を切る際にかかった費用は、Tさんに請求することができます。
ー今回は枝でしたが、根っこの場合であればどうなりますか
民法233条第4項に「隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる」と書かれているため、根っこは無条件で切ることが可能です。民法ではその対象が土地と切り離すことができるかという観点で区別するため、土地と切り離せない根っこは土地の所有者のものとされ、そのため自由に切ることができます。
ー木にできた果実の扱いはどうなりますか
枝についているうちは、枝と同様の扱いとなります。しかし実が枝から落ちて隣家の庭にあった場合の所有権は、木の持ち主のものになります。隣の家の子どもがボールを投げ込んだとしても、ボールの所有権は子どもであるというのと同様の考え方です。
一方で、松茸や椎茸のように根っこから生えてくるものに関しては、土地の所有者のものになります。
ーこの問題を円満に解決するにはどうしたらいいでしょうか
Sさんの場合は封書でも連絡していることから、最善策をとっているように考えられます。ただ、もし枝を切るために必要になった費用をTさんに請求しようと考えている場合は、弁護士に相談しつつ段取りを考えていくことをおすすめします。
枝を切る費用を請求しない場合は、もう一度封書で「○月○日○時から枝を切らせてもらいます」という旨をTさんに連絡後、様子を見てから切るようにしましょう。
◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士 「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないといわれる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)