共同名義マンション…売りたい夫VS住み続けたい妻 離婚後に待ち受ける「売れない現実」【専門家が解説】

共同名義でマンションを購入した夫婦。「ふたりでローンを返済していこう」と協力し合っていたが、いつしか気持ちにすれ違いが生じて離婚することになった。マンションを売って新しい生活を始めたい夫と、2人の子どもと一緒に住み続けたい奥さん。共同名義だと、両者が合意しないと売却できない。このようなケースでの落としどころをプロに聞いた。

■共同名義でマンションを購入した夫婦が離婚したら

夫婦共働きは、もはや珍しくない。子どもが生まれる前ならば、奥さんも働いているから、収入もあり蓄えもある。そんな夫婦が、共同名義で2LDKのマンションを買った。

「これから協力して、ローンを返済していこうね」と話し合って、毎月順調に返済が進んでいた。

夫婦は2人の子どもを設けたが、何らかの原因で夫婦仲にヒビが入って、離婚することになった。夫はマンションを売却して得た資金で、新しい生活を始めたいと考えている。片や奥さんは、子どもと一緒に住み続けたいと考えている。かつては「協力し合って」と共同名義で購入したことがかえって障害となってしまい、夫からすれば売りたいのに売れない事態となっている。

多くの場合、夫がマンションを出て部屋を借りるため、その分の家賃負担が発生する。月々10万円ずつローンを返済していたとすれば、夫が半分の5万円として、それにプラス自分の家賃と養育費を払うと、経済的にほぼパンク状態になる。

■売れることになっても「近所にバレないように売ってください」

不動産仲介業の株式会社グラウンド社長・鈴木宏治さんは、「今はマンションが値上がり傾向にあるから、もしかしたら東京や大阪では解消されているかもしれませんが」と前置きしたうえで、10年ほど前にあったケースとして、こんな話をしてくれた。

「旦那さんの負担が大きすぎるので、旦那さんの名義分を奥さんが買い取ったらどうですかという話になります」

ローンの残りを仮に3000万円として、名義が半分ずつの場合だと、旦那さんの名義分を奥さんが1500万円で買い取ればマンションは奥さんだけのものになる。だが、実際はそう単純な話でないという。夫婦間で売買を行うには、奥さんに収入があることが前提となる。

「共同名義で買ったときは奥さんも働いてましたが、子供ができたタイミングで仕事を辞めることが多い。パートに出るといっても、パート収入では買取るほどの住宅ローンも組めないし、買い取る手段がないのです」

結果どうなるかというと、奥さんの方が諦めて売却に同意せざるを得ないのだ。

奥さんが渋々同意して「売りましょう」という話になっても、その先にまた壁が立ちはだかっているという。

「たとえば旦那さんから相談を受けている不動産会社が、相場より高い価格で売ろうとしていることがあります。しかも、たまたま同じマンションから、もう少し安い価格で売りに出ている部屋があったら、当然に安いほうから売れますよね。案の定、なかなか売れません」

このようなケースだと、買い手がなかなかつかないまま、ローンの支払いが続くことになるそうだ。

また、元夫婦から、いろいろな条件が付けられた場合もあるそうだ。

「近所に離婚がバレたくないから広告を出さないでほしいとか、こっそり売ってほしいといわれることがあります」

たとえば広告に「〇〇マンション4階〇〇号」と書かれたら、ご近所の人が見たときに自分たちだと分かってしまうと体裁が悪いから、イヤなのだという。あるいは「子どもが通っている学校の、同じ校区内の人には売らないで」といわれることもあるそうだ。理由は同じく、離婚がバレたくないからだ。

「高く売るとか、広告を出さないで秘密で売ってほしいとか。それが希望の価格で売れにくい原因になります」

■関わった不動産業者にもメンタルの負担が大きい

「今3000万円だったら売れることになっても、ローンの残りが3500万円ということがあります。差額の500万円を現金で出さないといけないのですが、その現金がありません。離婚してそれぞれ新しい道を進みたいから、赤字をかぶってでも別れましょうという話にはならないのですよ。銀行としては、マンションが売れなくても月々のローンを払ってくれたら文句はありません。結果、離婚しても、生活を切り詰めて無理やりローンを払いながら延命を図るような格好になります」

このような状況に陥ったら、たいていの場合は夫が負担することが多いそうだ。

「子どもを抱えて制約の多い奥さんよりは、男性は働きやすいですからね」

この夫婦がその後どういう結末を迎えたのか、不動産業者として立ち入れる領域ではないため分からないとのこと。また、関わらないようにしているともいう。

さまざまな壁を乗り越えて、ようやく夫婦が売却に合意しても、多くの時間と労力、そして精神的な負担がかかる。

鈴木さんも「バッドエンドな結末はメンタル的にしんどいから、今は離婚を伴う案件を積極的には扱わなくなりました。なるべくハッピーエンドの取引をしたくて」と語っていた。

(まいどなニュース特約・平藤 清刀)

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