台風の数・勢力は変わらないのに…じわり増加する経済被害 2019年には2つの台風で2兆円損失、東京都税収の3割相当が消失

毎年夏から秋にかけて、日本では台風による被害が発生しています。8月29日には台風10号が鹿児島へ上陸し、九州を中心に関東・東海地方に至るまで大きな被害を出しました。

台風がくらしに与える影響は少しずつ変わってきているようです。台風の数や風の強さに大きな変化は見られないながらも、激しい雨を伴う台風が増えているおそれがあります。台風による経済的被害は年とともに、わずかながら増加する傾向にあります。2019年には2つの台風で2兆円近く被害が発生し、過去最高の被害額となりました。たった2回の台風で、東京都における税収の3割以上がなくなってしまうような損害にあたります。

地球温暖化の影響を受け、今後の台風は降水量や強い風の吹く範囲が10%以上強くなると予想されています。トラックが吹き飛ばされるほどの「強い」勢力を持つ台風の数も7%近く増える見込みです。台風による人的・経済的被害がますます大きくなっていくことから、事前の備えがより求められるようになります。

■台風の数や勢力は変わっていない…が将来には不安も

日本に接近・上陸する台風の数は、大きく増えているようには見えません。気象庁が公開しているデータによると、1951~2020年までの70年間で、1年あたり約3個の台風が日本に上陸しており、この数字は過去70年間でほぼ一定です。ちなみに日本に接近した台も1年あたり約11個で、過去と比べておおむね同じ水準です。

台風の勢力が強まっている傾向も今のところは見られません。平成30年度「防災白書」(総務省)では、「強い」以上の勢力になった台風の発生数が分析されています。「強い」以上の台風は、最大風速が秒速33メートル以上と定義されています。走行中のトラックも倒れてしまうほどの猛烈な強さの風で、屋外にいるだけで危険な状態です。こうした台風の発生数はおおむね一定であると説明されています。

ただし、極端な大雨が降る回数は以前と比べると増えており、台風による雨の降水量も増えているおそれがあります。気象庁の観測によると、1時間降水量が50mm以上となる「非常に激しい雨」は

・1976~1985年には年あたり174回

・2010~2019年には年あたり327回

発生しており、「非常に激しい雨」が降った回数は約1.9倍に増えています。この数値は台風以外の大雨も含んでいるものの、台風による雨も強くなっている可能性は高いです。台風が来たら強風だけでなく、大雨やそれに伴う災害にも注意すべきだと考えられます。

今後は地球温暖化などの影響によって、台風の数は少なくなる一方で、勢力や降水量がさらに強まると予想されています。海洋研究開発機構の分析では、現在と比べて21世紀の末には、強い台風はおよそ6.6パーセント増える見込みです。台風に伴う降水量は11.8%増え、強風域の半径もおよそ10.9%広がると予測されています。発生する台風の強度が増すため、ひとたび大型台風に襲われると、その被害は現在よりも甚大になるでしょう。

■台風による人的・経済的被害は大きい

今のところ台風がひどくなっている確かなデータはないものの、いったん台風が上陸すれば大きな被害が出ることは間違いありません。国土交通省の「水害統計調査」によると、台風による被害は、年を経るごとにわずかながら増える傾向にあります。2019年度には台風関連の被害額が2兆円近くに達し、統計開始以来最大の被害です。この年は台風15号や19号など、大型の台風が相次いで日本に上陸し、各地に甚大な被害をもたらしました。

台風によって、直接被害と間接被害が生じます。直接被害は、建物や家屋の損壊、インフラの破壊、農作物や漁業への被害などを指します。2019年の台風19号では、長野県の千曲川で堤防が決壊。広い範囲が浸水し、北陸新幹線の車両基地が水没するなど、住宅や工場に甚大な被害が出ました。

間接被害には、ビジネス活動の停止や交通機関の麻痺、観光業への打撃を通じた被害などが含まれます。2019年の台風15号では、千葉県を中心に大規模な停電が発生し、多くの企業が操業を停止せざるを得なくなりました。最大で約93万戸が停電し、完全復旧までに2週間以上かかった地域もあります。2018年の台風21号では、連絡橋にタンカーが衝突し、関西国際空港は閉鎖に追い込まれました。インバウンド観光や物流などを通じて間接被害が出たと考えられています。間接被害の影響は目に見えづらいですが、さまざまな調査・研究で経済活動にマイナスの影響をもたらすしくみが明らかにされています。

人的・経済的な被害を考える上では、高齢者はより大きな被害を受けるおそれが高いことにも注目すべきです。2020年度「防災白書」(内閣府)によると、台風や洪水で亡くなる人の7割以上が、60歳以上の高齢者でした。そうした高齢者は、避難の遅れや避難途中の事故により犠牲になっており、前もって避難・対応する必要があります。災害後も、高齢者世帯では壊れた自宅の建て替えや修繕などが円滑に進まず、復旧が遅れてしまう場合が多いです。台風による人的・経済的被害を少しでも防ぐべく、事前の備えがより求められます。

【参考】

▽気象庁「台風の統計資料」

▽内閣府「平成30年度防災白書」

▽環境省「気候変動管理レポート2023」

▽JAMSTEC BASE「地球温暖化で台風がますます激甚化する!?」

▽国土交通省「水害統計調査」

▽都築充雄(2020)「台風15号による電力被害状況と復旧の課題等」消防防災の科学、140号、22-26頁

   ◇   ◇

◆新居 理有(あらい・りある)龍谷大学経済学部准教授 1982年生まれ。京都大学にて博士(経済学)を修得。2011年から複数の大学に勤め、2023年から現職。主な専門分野はマクロ経済学や財政政策。大学教員として経済学の研究・教育に携わる一方で、ライターとして経済分野を中心に記事を執筆している。

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