電話対応終了まであと2分 ギリギリで保護した瀕死の猫 「手術中に亡くなるリスクがあります」獣医師の言葉に覚悟
群馬県動物愛護センターに、瀕死状態の猫が収容されました。
体のあちこちにけががあり、さらには小腸が体外に露出。なんらかの感染症を起こしている可能性がありました。また、眼振が出て脳にも障がいが起きている可能性もあり、いつ亡くなってもおかしくない状況でした。
ヒマラヤンとスコティッシュのミックス猫なので、元々はほぼ飼い猫だったのでしょう。飼い主の無責任さを思うと、強い怒りと憤りを覚えます。
■生きる見込みがなくても見過ごすことができなかった
センターを訪れ、この猫の存在を知った個人の保護ボランティアさんは、懇意の保護団体、Delacroix Dog Ranchの代表に相談。代表は保護を決意しましたが、このときすでにセンターの電話対応が終わる約2分前。ギリギリのところで職員に引き取りを申し出て、急いでセンターへと向かいました。
対面した猫は、聞いていた通りの瀕死の状態。センターの職員は「亡くなるだろう」と言い、代表も同じように感じました。
「そう長くは生きられない命を救うのなら、まだ先が長い犬猫を優先して救うべき」という考え方もあるでしょう。しかし、目の前で、今にも息を引き取りそうな猫をそのまま見過ごすことが代表にはどうしてもできませんでした。そして、センターから猫を引き出したその足で動物病院へと連れて行きました。
■「治療できことは限られ、相当なお金もかかります」
猫の状態を見た若い獣医師は、代表が治療に連れてきた意図が、全く理解できない様子でした。代表の真意を知り、慎重に言葉を選びながら、遠回しに「亡くなる猫に治療できることは限られるし、相当なお金もかかりますよ?」といったニュアンスでした。
代表はきっぱりと言いました。
「お金がかかったとしても、最後の望みをかけて生かして上げるための挑戦をしたいです。なんとか治療をお願いします。
■医療処置に伴ういくつものリスク
獣医師は、瀕死の猫を前に、医療処置を施すリスクを代表に説明しました。
「麻酔のリスクが高く、手術中に亡くなる可能性があること」
「眼振の原因が脳内出血などの場合、獣医療での脳外科手術には限界があること」
「体外に露出した小腸は壊死しており、生きている小腸を繋げても消化機能が低下する可能性があること」
「骨折した骨盤を繋げても、排泄障がいが残る可能性があること」
代表はそこでも考えを変えず、まずは小腸の手術を最優先に実施してもらうことにしました。
そして、ここで猫の名前をつけてあげることにしました。名前は「ミラクル」。奇跡を起こしてくれることを期待しました。
■「無事手術を終えました」
ミラクルの小腸の手術は数時間に及び、深夜1時、獣医師から代表の元へ電話が入りました。
「無事手術を終えました。先ほど麻酔から醒めたところです」
露出した小腸は大網(胃の下部から垂れて腸の前面を覆う脂肪に富んだ薄い膜の部分で、胃腸を保護する役割がある)に守られ、壊死していたのはこの大網のみだったと獣医師は言います。そして、小腸を切らずに残すことができ、麻酔も短時間で済んだことで、ミラクルの体への負担も小さく済んだとも。
これほどまでに熱心に対応してくれた獣医師に、代表は心からお礼の言葉を伝えました。
■奇跡的に健康を取り戻した後、その元にさらなる吉報が
朗報はほかにも。ミラクルが当初見せていた眼振は、シャム系猫種に多い先天的なもので脳内出血もないことが判明。ミラクルはこの手術の後、みるみる元気を取り戻し、後に骨折やけがの治療も実施。瀕死の状態から奇跡的な回復を見せてくれました。
完全に健康になったミラクルに吉報が舞い込みます。「迎え入れたい」という里親希望者さんが現れたのです。
■「約2分」の判断と申し出が生死を分けた
息を吹き返し、健康となり、さらには幸せな余生をつかんだミラクルを前に、代表は小躍りするほど喜びました。
迷わず判断し、センターの電話対応終了まで「約2分」に申し出たことが、ミラクルの生死を分けたようにも感じます。この深い愛情を受け、当のミラクルもまた自らの「生きる力」を振り絞り、さらには幸せの赤い糸を手繰り寄せてくれたようにも思います。
ミラクル自身の力と心ある人たちの善意と尽力でつながった「第二の猫生」。ずっと長く続いてくれると良いなと思いました。
(まいどなニュース特約・松田 義人)