日本の救助犬はなぜ「靴」を履かないの?能登半島の豪雨災害現場でも活動した犬たちの命と安全に関わる「切実な理由」を救助犬団体に聞いた

令和6年9月21日に能登半島に発生した線状降水帯による大雨洪水で行方不明となっている方々の捜索救助のため、現地に出動した、愛知県豊橋市を拠点に活動する民間の捜索救助犬活動団体「捜索救助犬 HDS K9」(@HDSK9_V)さん。

令和6年元旦に発生した能登半島地震や、8月末に発生した愛知県蒲郡市の土砂崩れ現場などで行方不明者の発見に貢献した救助犬、ベルジアン・シェパード・マリノアのリッターくんら、HDS所属の救助犬たちとハンドラーの方々は、現地の消防や警察の指揮のもと捜索救助活動を行った。

そんな救助犬の活動が報道されるたび、「なぜ犬に靴を履かせないのか?」といった疑問や心配の声が多くあがるという。

■犬の安全を誰よりも願うハンドラーたちが「犬に靴を履かせない理由」とは?

言うまでもなく、救助犬たちの安全を誰よりも考えているのは、犬たちの飼い主でもあるハンドラー(※救助犬を引率する人)自身だ。

そもそも救助犬たちは「靴」を履く訓練をしっかりと受けている。それでもハンドラーたちが救助現場で大切な愛犬に「靴」を履かせないのはなぜか? 実はそこには、犬たちの命と安全に関わる大きな理由がある。

■既存の「活動靴」では犬の安全がキープできない現状

まず、「靴」で覆われる犬の足裏にあるパッド(肉球)には、多くの神経や血管があり、痛みや温度など、触った場所の情報を得るセンサーのような役割を持っている。また、犬の肉球は冷たくなると血液量が増加し、凍傷になりにくいという優れた機能があるという。

そんな肉球は犬が「汗」をかく唯一の器官。シリコンや布で出来た「靴」で肉球を覆ってしまうと体温調節が難しく、高温多湿な日本の気候下では、犬が熱中症になるリスクが高くなり、現場で十分に能力を発揮できない上、犬の健康や命に危険がおよぶ可能性がある。

「犬の肉球は地面の状態を捉え、踏み込む時はクッションのように衝撃を吸収し、指や爪を使って地面を掴む、という大事な役割を果たしています。特に被災地のような不安定な場所では滑落などの危険もあり、よりいっそう肉球の役割が大きくなります。

愛する犬たちの大切な『肉球』を守り、足の感覚も素足同様に生かされ、なおかつ、活動に支障のない靴があるのが理想です。しかし、残念ながら既存の『活動靴』のなかに私たちの希望に添うものがない…というのが現状です」(捜索救助犬 HDS K9)

■シンデレラフィットする「活動靴」の研究・開発を

現在、日本の救助犬が活用している「活動靴」などの装備品のほとんどが、海外製の軍用犬や警察犬用のものだ。海外の救助犬や警察犬が靴を履いて活動する姿を見る機会もあるが、海外と日本では被災現場の状況が大きく異なるという。

例えば、高温多湿な日本の場合、被災現場の地面は大量の水分を含んだ泥や瓦礫で覆われていることが多い。そのため、現在の「活動靴」では犬が足元を十分にグリップ出来ず滑落する危険が高い。また、泥などで足を取られた場合、靴が容易に脱げてしまうそうだ。

「災害現場には犬たちにとって危険な物が散乱しており、受傷する犬も少なくありません。バランス保持のためには素足で活動することが望ましいのですが、もし素足のように犬の足にシンデレラフィットする活動靴があるなら、ぜひ活用したいと考えています。

私たちの希望や要望をしっかりと聞いてくださり、お互いに気兼ねなく意見を交わし合える企業様と共に、自分たちの犬に安心して履かせられ、かつ、犬のパフォーマンスを上げてくれる靴を作っていけることが理想です。私たちと一緒に研究・開発してくださる企業様、協力してくださる企業様がいらっしゃいましたら、私どもまでご連絡いただけますと幸いです」(捜索救助犬 HDS K9)

■救助犬の出動費は寄付金と自費…災害大国「日本」の厳しい現状

甚大な被害が予想される南海トラフ地震の危険性も高まる災害大国、日本。しかし現在、行方不明者の捜索のため被災地に出動している救助犬団体のほとんどは、民間のボランティア団体だ。

国や自治体などの公的機関からの救助要請であっても、出動に関わる交通費や燃料費などの諸経費はおろか、救助現場で犬やハンドラーが身体的・心的外傷を受けた場合でも、公的な補助や補償は一切ない。

■理想の「救助犬用装備」を求めて

捜索救助犬 HDS K9さんによると、人命救助に欠かせない救助犬たちの安全を守るための「活動靴」や「ヘルメット」なども、気候などの条件が大きく異なる海外製の軍用品などに頼らざるを得ないのが現状だという。

近い将来、日本の救助犬たちが安全に活動を行える日本製の「活動靴」が誕生する日が待ち遠しい限りだ。

現在、捜索救助犬 HDS K9では、今後の活動を支えるためのクラウドファンディング「令和6年石川能登地震 捜索救助犬派遣」のネクストゴールにもチャレンジ中だ。

※令和6年9月21日に能登半島に発生した線状降水帯による大雨洪水によりお亡くなりになられた方々に謹んでお悔やみを申し上げます。一日も早い復旧復興と、被災された皆さまに平穏な日々が戻りますことをお祈り申し上げます。

(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・はやかわ リュウ)

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