地震後、避難所を離れようとしない中年男性 閉鎖直前、男性が発したSOSとは【防災アドバイザーの体験談】

とある地域を襲った地震の影響で自宅が半壊してしまったため、Aさんは避難所へとやってきました。人命にかかわるような被害はなかったものの家屋が被害にあった多くの人が、Aさんと同じように避難所に身を寄せていました。避難している人たちは不安な表情を浮かべながらも、周囲とコミュニケーションをとりながら避難生活を送っています。

Aさんが避難所にいる人たちを見渡したところ、あまり周囲とコミュニケーションを取ろうとしていない中年男性Bさんを見つけます。Bさんは地震の前から近所とは交流を持たず、ほとんど自宅から出ない生活を送っていました。避難所では、一日中外に出ようとせず、自宅のようすを見に行く気配もありません。配給される食事を食べては、自分のスペースでごろごろするばかりです。

Bさんの家は近所で有名なごみ屋敷で、近所からクレームが届くような場所でした。行政や支援団体が何らかの形でBさんを支援しようとしていたのですが、Bさんは断固拒否していたのです。支援を拒否する姿勢は避難所でも同じで、相談員がBさんの自宅を見に行こうと声をかけても聞く耳すら持ちませんでした。

時間が経つにつれて避難していた人たちも自宅や親戚の家へと移っていき、避難所を利用する人が少なくなってきたころ、避難所が閉所されることが発表されました。Bさんはその時になってようやく重い腰をあげ、自宅へと帰ろうとします。その時になって初めてBさんは、相談員に自宅のことを相談するのでした。

避難所で実際にBさんのような人を見かけたという防災アドバイザーの佐村河内さんから、具体的に話を聞きました。

   ◇   ◇

ーBさんのような人が避難所にいる理由は何でしょうか。

私が見かけた人は、Bさんのようにもともとごみ屋敷に住んでいる人でした。普段から近隣住民から匂いがしたり、危険じゃないかと思われたりしており、何かしら支援が必要なのではと声があがっていたそうです。それでも本人は何の問題もないと思っており、家に入られたくないという理由で支援を断っていました。

地震の影響で家の中のごみが崩れてしまい、その人の家は片付けない限り住めなくなっていました。自分ひとりでは片付けられないにもかかわらず、支援も受けたくないと思っており、それであれば食事も配給される避難所で生活しようということだったようです。

ーごみが散乱したとはいえ、自宅に帰ろうとしないのはなぜなのでしょうか

自宅に帰るとごみでめちゃくちゃになった部屋と向き合わなければなりません。それよりも避難所にいたほうが、食事も提供され自分のスペースも確保されます。彼にとっては自宅を片付けるより、避難所にいた方が安心だったのかもしれません。

ー避難所が閉所されたあと、その人はどうされたのですか。

避難所が閉所されることになり、その人も自宅に帰らないといけなくなりました。そこで初めてその方は福祉の手助けを受け入れる道を選ばれました。地震の前は社会福祉協議会や地域包括支援センターなどの支援を拒否していた人だったので、支援する側としてもつながることができて胸をなでおろしたそうです。

本人が拒否していては、どうしても支援の手は届きません。地震という災害がきっかけではありましたが、支援の手が届いたという点では、Bさんのこれからの人生に変化をもたらすのではないでしょうか。

◆佐村河内 力(さむらこうち・つとむ)/防災アドバイザー 大学卒業後、社会福祉協議会に勤務、総務、地域支援担当など経験。大阪北部地震(2018年)の際には、災害ボラセン責任者として前線で指揮をとる。現在は、独立し、北おおさか社会福祉士事務所を開所。防災のアドバイザー、福祉系のコンサルなどに携わり、今も災害支援を行う。

(まいどなニュース特約・長澤 芳子)

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