「ワンピース着て可愛く歌え」「もっとエンタメしろ」周囲の雑音に中指を立て続けた 鈴木実貴子ズが鳴らす剥き出しの感情と祈りの歌
「こびりついた夢に殺される感覚 ぬるいお前には絶対わかんねぇよ」『ファッキンミュージック』
赤裸々かつ鋭利な言葉を、切なくも激しいメロディに叩きつける。名古屋を拠点に活動するオルタナティブロックバンド・鈴木実貴子ズの衝撃と共感が、ジワジワと音楽シーンに浸透しつつある。
作詞・作曲・ボーカルギターの鈴木実貴子(35)とドラムスのズ(37)からなる2人組バンド。2012年に結成し、現在までに3枚のアルバム、2枚のEPをインディーズレーベルからリリース。2022年のフジロックフェスティバル「ルーキーアゴーゴー」とライジングサンロックフェスティバル2022の「ライジングスター」に選出されるなど、結成10周年を迎えたあたりから追い風が吹いている。2023年末には芸能大手のホリプロに所属した。
■歌わざるを得ない切実さ
重ねた年齢と10年超の活動歴は苦節?いや、彼らの場合は雌伏の時だったといえる。
「女なんだから化粧しろ」「ワンピース着て可愛く歌え」「もっとエンタメしろ」。“音楽”とは関係のない雑音に耳を傾けず染まらず、時に中指を立てて自分たちのスタイルを貫き奏でてきた。殴りつける様にギターのストロークを繰り出し、喉を振り絞って。届くべき相手に届いて欲しいと切に願いながら歌い続けた年月。そんな抵抗と成熟の時間はしっかりと歌詞に反映されている。
「勘違い男はバンドを辞めろ お前が好きなのは音楽じゃなくて女だろ」『口内炎が治らない』
「売れない芸術に価値はあるのかい 買い手のない私はただの塊かい」『音楽やめたい』
「最終目標、正々堂々、死亡 僕だけの正解 お前から見ればただのゴミ」『正々堂々、死亡』
「鏡に映るのは中途半端な自分でそれを壊すほどドラマッチックな歳じゃない」『ロックンロールが鳴らない』
ニセモノに対する憤怒。ふがいない自分に対するやるせなさと葛藤、不安。鈴木が歌詞として吐き出す言葉の背景に、歌わざるを得ない人間特有の切実さが透けて見える。
「音楽は気持ちが落ち込んだ時にしか作れないというか、他人に対する憤りや自分に対する怒り、人には言えないことを歌詞として書いているので作詞はしんどいです。泣きながら書くし、メロディを作りながらボロボロ泣く。負の感情と対峙するキツさはあるけれど、音楽でしかそれを吐き出すことが出来ないから作らざるを得ないし、歌わざるを得ない。ある意味、排泄行為に近いというか。音楽がなければ自分を保てなかったと思います。生きていくための最後の砦のようなものだから」
■ラジオ番組でのOA不可
強烈なパンチに似た歌詞に反するかのように、切なさ漂うメロディと力強くも透き通った鈴木の声が雑味を浄化する。まるで祈りの歌のように聴こえてくるのだから不思議。鈴木にもその自覚はあるようだ。
「私の歌は基本的には祈りであり、どうにかしたい自分に向けて“変われよ!”という願いです。とはいえ12年やっても自分は何も変わらない。でもその弱さが実は私の強み。弱いから音楽に頼るし、弱いままじゃ生きていけないから音楽を通して強がっているのかも」
彼女自身が自分の弱さを認めているから、たとえ攻撃的な曲想であったとしても結局は弱者に寄り添う視点の曲になるのだろうか。そんな鈴木が生み出す唯一無二の楽曲を力強いサウンド面で支えてきたのがドラマーのズ。自らの立ち位置をこう説明する。
「鈴木実貴子の感情という狭い範囲で作った楽曲の中に客観的な僕という存在が入ることで、楽曲の世界観をより広くする可能性を高めたい。12年そう思い続けてこれたのは、自分の中にも鈴木実貴子的なものがあるから。僕だけではなく誰しもが少なからず抱いている負の感情。そんな人間の闇を彼女に代弁してもらっている感覚です」
ちなみに『ファッキンミュージック』は“ファッキン”という歌詞がよろしくないということで、某局のラジオ番組ではOA不可という判断をくだされたらしい。
「言葉の変換能力を身に付けたい。怒りの気持ちをダイレクトではなく上手く変換できれば曲もスムーズにOAされて広く伝わるから。ただその能力がなかなか身につかない…」と嘆く鈴木に対して、ズは「それは僕だって変換できない。そもそもOAできないからって我慢する意味がよくわからない。言いたいことも言えない今の世の中にあって“ファッキンミュージック”と言えるパッション。それこそ素敵でしょ?」と忖度するなと叱咤激励。これに鈴木は「多様性の時代ですからね。私たちのようなバンドが一組くらいいたっていいか!?」と嬉しそう。良いバランスで成り立っているバンドだ。
■ライブは全身全霊表現の場
鈴木実貴子ズの真骨頂はライブにあり。裸足の鈴木が年季の入ったアコギを下げて全身全霊で歌う。剥き出しの感情。身を削って音楽と対峙している凄み。その本気度数の高さが魂の叫びのような歌詞を際立たせ、オーディエンスの心と涙腺を刺す。そして突きつけてくる。お前はどうなんだ!?と。鈴木実貴子ズのライブは、聴くのではなく浴びると表現するのが正しいのかもしれない。
鈴木は「ボーカルなんだから歌なんだから、喉を楽器にして幅を広げて聴かせろと言われたこともあります。その言い分もわかるけれど、ライブでは自分という生身を差し出すことしかできない。音楽という意識以上に“表現”。余裕と余白を持って歌を純粋に楽しみたいと思うけれど、いざステージに立って自分と向き合って作った曲を大きな音でやるとなると…すべてが吹っ飛ぶ。良くも悪くも“表現”になってしまう」と頭をかく。
そんな闘志炸裂の鈴木を、ズは時にセコンドのトレーナーのように冷静に諫める。ライブでの二人の緩急が絶妙で、心をえぐる様な楽曲後のズによるゆる~いMCが会場をドッと沸かせることも。
ズは「場を緩めようと狙ってMCをやっているわけではないけれど、流石にお客さんも鈴木実貴子ズの楽曲の連打はキツイと思うので…」と観客への気配りを見せながら「僕としては鈴木実貴子ズのメンバーとしてドラムを叩いていながらも、気持ち的には半分観客の気分。彼女が楽曲を通してぶちまける感情の一部に便乗して自分も曝け出せている気がします」と鈴木の表現の発露に惚れこんでいる。
■ずっとどこにも馴染めズ
芸能大手のホリプロに所属し、結成10年を超えた今。メジャーデビューの日もきっと近い。
にもかかわらず、鈴木は「私たちはずっとどこにも誰にも馴染めなかった。そんな悲しいグループなので道なき道を行くのみ!」と自虐を交えた初心貫徹宣言。ズも「僕らは仲間外れのアウトサイダー。だから楽しいのかも?」と笑い飛ばして「エッジの効いた歌詞のイメージから“強いバンド”だと言われることがあるけれど、そんな単純な強さは僕らにはない。鈴木実貴子ズの強さとは、生きづらさや自分の弱さに打ちのめされながらも、底辺から立ち上がる時に出る強さ。そんな不屈の姿が魅力的だと思われるバンドに成長していきたいです」
「何にも誰にも染まらず壊されないでくれよ 目の前の今をこの今を投げ出さないでくれよ」『夕やけ』
生み出す歌詞そのままに、これからも不器用に愚直に。ウソなく歌い続ける日々はそう簡単には終わらない。
(まいどなニュース特約・石井 隼人)