【本仮屋】芸能姉妹の名字、そもそも「仮屋」って? 鹿児島にルーツがある独特の意味を解説
女優だけではなく、最近は歌手としても活動している本仮屋ユイカ。妹の本仮屋リイナもフリーアナウンサーとして活躍している。芸能界に2人もいるため私たちもいつの間にか聞き慣れてしまっているが、「本仮屋」という名字はかなり珍しい。
「本仮屋」は鹿児島県独特の名字で、鹿児島市と霧島市に集中している珍しいもの。本仮屋姉妹は東京の出身だが、そのルーツは確実に鹿児島県にある。
「本仮屋」のルーツを探るためには、まず「仮屋」の意味を知る必要がある。
「仮屋」とは文字通り、仮に作った家のことである。しかし、「仮屋」という名字の集中している鹿児島県には独特の意味がある。
江戸時代、多くの藩では武士は城下町に住み、藩から石高に応じた米を支給されて、これを換金して生活していた。
しかし、戦国時代に九州の大半を制しながら、江戸時代には薩摩・大隅の2カ国に押し込まれた薩摩藩では、他藩と比べて武士の数が極めて多かったため、全ての武士が鹿児島城下に住むことはできなかった。
そこで薩摩藩では、城下に住めない武士が各地に「麓」と呼ばれる武家集落をつくってそこに住む「外城(とじょう)制度」という独自の制度を作った。「麓」というのは、かつての山城の麓に集落を作ることが多かったことに由来しており、いわば中世の制度をそのまま残したようなものだ。
そして、その麓の中心にあって、麓を管理した場所が「仮屋」である。「仮屋」は藩の代官所のような位置づけであった。
また、「仮屋」はその地の管理をするだけではなく、藩主の参勤交代・巡見等の際には宿泊所としての役割も果たすなど、その地域の中心的な施設でもあった。こうした「仮屋」に関係した人達が名乗ったのが「仮屋」という名字である。
では、「本仮屋」とは何だろうか。
おそらく代官所である仮屋が何らかの事情で移動した際に、もとあった仮屋の跡地を指すのだろう。こうした場所が本仮屋と呼ばれ、そこに住んだ人が「本仮屋」を名乗ったと考えられる。
なお、「かりや」には「假屋」と書く名字もあるが、同じ由来である。
◆森岡 浩 姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部卒。学生時代から独学で名字を研究、文献だけにとらわれず、地名学、民俗学などを幅広く取り入れながら、実証的な研究を続ける。NHK「日本人のおなまえっ!」にコメンテーターとして出演中。著書は「47都道府県名字百科」「全国名字大事典」「日本名門名家大事典」など多数。