「担当は別の人に」利用者家族からクレーム攻撃、個人携帯にも連絡が カスハラが職員を追い詰める…介護・福祉現場での深刻な実態
顧客が企業に対して理不尽なクレームをおこなうカスハラ(カスターハラスメント)が増加し、さまざまな企業で問題視されています。東京商工リサーチ(TSR)の調査によると、カスハラを受けた経験がある企業は約19.1%、カスハラの影響で休業や退職の発生を余儀なくされた企業も13.5%もありました。
では休業や退職に追い込まれる程のカスハラ被害とは、どのようなものなのでしょうか。介護施設で勤務している中で、実際にカスハラ被害に遭ったKさんに詳しく話を聞きました。
ーどのような内容のカスハラが発生したのでしょうか
最近入居された人のご家族からかかってくる毎日の問い合わせ電話です。内容は食事のメニューについてなのですが、メニューが気に入らないと「祝日だから人手が少なくて手抜きになっているんじゃないの?」と、夜中まで問い詰められ続けるのです。
最初のうちは食事のメニューについてだけだったのですが、そのうちスタッフのシフトに関しても「Sさんは嫌いだと言っているのにどうして担当にさせるの?別の人にして」と要求されたり、「言葉遣いがおかしいんじゃない?」と言われたり、あらゆることに対してクレームが入るようになりました。
入居されているご本人はこちらに文句や嫌なそぶりもないのですが、ご家族の人は気に入らないことが多いらしく、理不尽な要求やクレームが続きました。担当になったSさんには個人の携帯にも電話がかかってきていたようで、17時から21時までクレームを言われ続けることもあったみたいです。頻繁にこのようなことが続いたため、Sさんは心労から休職してしまいました。
■利用者の保護者からのカスハラとその対策
次に、同じ福祉業である障害者施設「たんぽぽの丘」(本部・大阪府大阪狭山市)理事長の野邑さんに話を聞きました。
ー実際に現場ではどのようなカスハラ被害が起こっているのでしょうか?
施設では、利用者さんからのクレームはほとんどありませんが、保護者や家族からクレームが寄せられることがあります。
例えば、ある利用者さんがトイレでトイレットペーパーを大量に使って詰まらせてしまうため、施設では少量のトイレットペーパーを設置して対応していました。しかし保護者から「福祉施設なら、トイレが詰まらないようにリフォームすべきでは?」と言われることがあります。
他にも、献立表を見て内容を想像し、「食べ盛りなのにかわいそう。自分の息子にはもっと高カロリーのメニューを出して欲しい」など無理な要望を言われることもありました。
営業中の施設の固定電話や管理者のLINEにまで連絡が来るため、市役所からの重要な連絡が取れないこともあったのです。当時は管理者や職員は会社に相談することなく耐えていたのですが、数名の職員が体調不良となったことで事案が私の耳にも入り、急いで対策を開始しました。
ーカスハラ被害に遭われた後の対応について聞かせてください
まず弁護士に相談し、契約書を見ていただきました。カスハラに対して何かしら措置を取りたいと思っていましたが、相手が亡くなった時や、物を壊す等の破壊行為、人の命に係るような他害行為があった場合しか契約解除はできないことが分かりました。
そこでクレームのひどい利用者さんの保護者に、職員の休職や体調不良の改善のための契約解除を頼みました。保護者からは「私たちのせいで休職になったのか?私たちを悪者にしたいのか?」と、ひどく責められましたが、こちらからは「いいえ、職員の経験不足により対応できない状況です」と答えるしかなく、とても悔しかったことを覚えています。
話し合いの結果、なんとか納得していただき契約を解除してもらえましたが、今後同じ思いをしないためにも、カスハラ対策を急務と考えました。
この体験を今後に生かすためにも、弁護士に契約書のリーガルチェックをおこなっていただき、カスハラ対策として施設側からも解除できる契約書に作り変えました。
ーカスハラ被害に対して何かルールを決めていますか?
今回の件を受けて、職員会議等で保護者からのクレームについては、すぐに返答せず管理者から折り返す形で統一しました。また電話に録音機能をつけ「この電話は録音されます」というメッセージのあとに、会話が始まるようにしています。
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もしカスハラ被害の対策で、何をするべきか分からない人は、厚生労働省が発行している「カスタマーハラスメント対策マニュアル」を参考にすることをおすすめします。また、自分たちで解決できない場合は無理に抱え込まずに、弁護士や警察へ相談できることを忘れないでください。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)