「実質的な年収」が高いのは東京か地方か 物価の違いを考えた「お得に住める」都道府県はどこ?【政府統計データで比較】

 東京のような都市で働くか、地方で働くか。多くの人にとって人生における大きな選択の一つです。「東京で働いた方が年収は高く豊かな生活ができる」という声をよく聞きます。一方で、「モノの値段は安いから、地方に住む方が実際の生活水準は高くなる」という考えにもうなずけます。どちらが正しそうかは、実際の経済データを見てみなければ判断できません。地域ごとの物価の違いも考えたうえで、実質的な年収が高い都道府県はどこか、政府統計データを使って比べてみます。

 都道府県ごとの物価の違いをならした実質的な年収は、東京・神奈川や、栃木・大阪・愛知では540~555万円でした。東京・神奈川と栃木・大阪・愛知とでは、実質的な年収があまり変わらないことになります。これは、東京・神奈川での物価水準が、他の都道府県と比べて3~4%ほど高いことが主な原因です。物価データをより詳しく見ると、都市で暮らした方がお得な人や、地方で暮らすのに合っている家庭についても考えられます。

■東京の実質年収は栃木や大阪と同じ?物価を考慮した年収が高い都道府県はどこ?

 まずは平均年収を額面で見た金額を見てみましょう。2023年は東京都や神奈川県がもっとも高く、東京都は580.7万円、神奈川県は570.9万円となりました。単純な年収では東京・神奈川が頭ひとつ抜けており、東京で働いた方が年収は高い、と結論づけたくなります。しかし、生活水準が高いかを調べるためには、都道府県ごとの物価の差をならした実質的な年収を比べる必要があります。

 都道府県における物価をならした実質的な年収は、東京都・神奈川県と、栃木県・大阪府・愛知県とでほとんど同じです。全国平均の年収が422.5万円であるのに対し、栃木県は548.4万円、愛知県は540.1万円、大阪府は549.4万円がそれぞれ実質的な年収でした。東京都の実質的な年収は555.7万円、神奈川県では553.8万円です。実際の生活水準は、東京・神奈川と栃木・大阪・愛知あたりとでそれほど変わらないことになります。

 一方で、地域間における物価の違いを考えても、上でとりあげていない地方は東京・神奈川に近い年収とはなりませんでした。地方の県よりも東京都・大阪府・愛知県といった都市部の方が実質的な年収は高い傾向にあり、金銭的にはお得に住めると言えそうです。

■東京・神奈川は他の県より3~4%ほど物価が高い…なぜ?

 それぞれの都道府県においてモノの価格がどのくらい異なるかは、物価水準を見れば分かります。全国平均と比べると、東京都は4%、神奈川県は3%ほど物価が高い傾向にあります。一方、群馬県、宮崎県、鹿児島県などは全国平均と比べて4%ほど物価が低いです。

 物価水準が高ければ、他の地域と比べて実質的な年収が下がります。同じだけ収入があっても、物価が高ければ購入できる商品が少なくなってしまうことを意味しているのです。逆に、物価水準が低ければ、実質的な年収は上がります。実質的な年収で東京・神奈川と茨城・愛知・大阪とで差があまりなかった理由は、東京・神奈川の物価水準が他の県より高かったためです。

 なぜ、東京都や神奈川県は、他の都道府県より物価水準が高いのでしょうか。大きな原因は、住宅費と教育費にあると考えられます。住宅の価格を見てみると、東京都は全国平均と比べて27.2%も高いです。神奈川県も11.2%上回っていました。また、教育サービスの価格は、東京都が9.3%、神奈川県が9.2%、それぞれ全国平均より高い水準です。ちなみに、教育サービスの価格は関西エリアでも高くなっています。大阪府で22.3%、京都府で15.1%、兵庫県で14.9%と、いずれも全国平均を大きく上回っていました。住宅や教育サービスの価格が高いことが、東京や神奈川の物価を引き上げ、実質的な年収を下げる大きな要因だと考えられます。

 都会か地方か、どちらが生活しやすいかは、住宅・教育サービスにどれだけ支出する必要があるかで大きく変わってくるでしょう。

 たとえば、子育て世代の家庭が、マイホームを検討していたり教育への支出が必要だったりするとしましょう。こうした家庭は、東京のような都市部から地方へ移動すれば、生活水準を高められると考えられます。住宅費や教育費の負担が軽くなれば、同じ年収でもより経済的に余裕のある生活ができるからです。一方、子育てが終わっていたり、持ち家がすでにある世帯は、都市部から地方へ移動してもさほど生活水準は高くならないでしょう。仕事の選択肢や公共交通機関が多いことを考えれば、都市部に住むメリットは大きいと言えます。

◆新居 理有(あらい・りある)龍谷大学経済学部准教授 1982年生まれ。京都大学にて博士(経済学)を修得。2011年から複数の大学に勤め、2023年から現職。主な専門分野はマクロ経済学や財政政策。大学教員として経済学の研究・教育に携わる一方で、ライターとして経済分野を中心に記事を執筆している。

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