指がない私の右手は魔法の手…名付けて「ぐーちゃん」 先天性四肢障害の女性が発信する日常 「障害の話をタブーにしない社会」を願って

多くの人とは手足が少し違う形で生まれてくる「先天性四肢障害」は指が少ない、指と指がくっついているなど、人によって症状がさまざま。有病率は、出生10,000人当たり7.9例と報告されている。

むろいのぞみさん(@guuuu_no)は右手の指がない。(※掲載写真はインカメラ撮影によって反転しているように見えるものがあります)。幼い頃、両親がつけてくれた「ぐーちゃん」という呼び名で自身の右手に表現し、先天性四肢障害の周知に取り組んでいる。

■両親が「ぐーちゃん」と名付けた魔法の右手

先天性四肢障害が発症する原因は、親からの遺伝や胎児期のウイルス感染など様々。のぞみさんの場合は胎児の頃、へその緒が巻きつき、指が形成されなかったと考えられている。

障害は、妊婦健診では発見されず。だが、父親はエコー検査でお腹の様子を見た時、「指がないかも」と思ったことはあったそうだ。

自身の障害を自覚したのは、保育園の頃。両親は、のぞみさんの右手を「魔法の手」と表現し、周囲との違いを教えた。

「だから、当時の私は『みんなと違うんだよ、いいでしょう』と思っていました。同級生も、それが普通という感じ。ただ、気にはなるようで、『見せて』と言われることはありました」

同級生はのぞみさんの右手を「かわいい」と褒めたり、優しく握ってくれたりと温かい反応を見せてくれたそう。

のぞみさんは自身と同じ手を持つ女の子が登場する絵本『さっちゃんのまほうのて』(たばたせいいち)を読みながら、自分の障害を理解していった。

■大勢の前で障害を語って人生観が変わった

しかし、思春期には周りの視線が気になり、右手にコンプレックスを感じるように。鏡を見た瞬間には指がない自分に落ちこみ、友達とプリクラを撮る時には両手のポーズができず、歯がゆい思いをした。

大学生の頃にはアルバイトの面接がなかなか受からず。

「障害のことは言われなかったけれど落ちることが多く、何十社も受けました。自分ではできると分かっていることでも、できないと思われることが多かったので、もどかしかった」

面接時には「実践させてください」と伝えて作業する様子を見せたこともある。だが、担当者から「今はできるけど、早く作業できるの?」と言われ、不採用になってしまったそう。

「レジなど、人前に出る仕事は『お客さんをびっくりさせてしまう』という理由で断られたこともありました」

そうした経験すると、右手へのコンプレックスはより強くなる。ひそかに抱いていた「同じ障害の人に希望を与えたい」という夢も遠く感じるようになった。

そんな心境のまま、のぞみさんはある日、障害者用ウェブマガジンのモデルに応募。すると、見事合格し、グランプリに。その時、大勢の前で初めて自身の障害を話し、人生観が変わった。

「障害を前向きに捉えられるようになったわけではないけれど、殻を破れたと感じました。悩んでも指が生えてくるわけではないのだから、暗い感情に心を引っ張られず、生まれてきたからには楽しいことをしようと思うようになったんです」

■自分の日常を同じ障害を持つ親御さんに届けたい

また、大学生の頃に経験した児童発達支援センターでの教育実習も生き方を変えるきっかけになった。

実習中、障害児の親と関わる中で、のぞみさんは親側が抱く「我が子の未来への不安」を知り、何かしたいと思うように。そこで、自身の日常をSNSや動画で配信し始めた。先天性四肢障害の子を持つ親に前向きな気持ちになってもらいたいと考えたからだ。

動画では、ヘアアレンジの仕方やリボンの結び方など同じ障害を持つ人が日常生活の中で役立つと感じる工夫も公開。

先天性四肢障害の子を持つ親からは感謝の言葉や、「うちの子もできました」という報告が寄せられている。

「バッシング受けたらどうしようと考えていたけれど、発信してみたら温かい言葉が多くて嬉しかったし、自信に繋がりました。日常生活で役立つ工夫の情報交換ができるのもありがたいです」

正直、自身の障害について悩むことはまだ多い。すれ違った人の心ない言葉に傷つく日はあり、夜中に気持ちが落ちる「ぐーちゃんイヤイヤ期」も訪れる。

だが、障害はずっと付き合っていくものであるからこそ、モヤモヤした時には「今日は悩む日」と決めてとことん心と向き合い、翌日には気持ちを切り替えるなどして自分の機嫌を取っているそう。

「障害に関する悩みは人によって違い、その人にしか分からない痛みだってある。障害がある自分をすぐに受け入れられなくてもいいと私は思います。各々が自分に合う向き合い方を見つけられたらいいですよね」

現在、のぞみさんは知的障害者のグループホームに勤務。利用者の介助や部屋の掃除、食事の支援などを行っている。周りの人に助けられた経験から自分も障害に関係がある仕事に就きたいと考え、今の職場を選んだ。

「利用者さんの安全を確保することが一番大切なので、体を支えるなどの難しい業務は一緒に働いている方にお願いしています。助け合いや配慮があり、とてもありがたいです」

小さな頃からアイドルやドラマを見るのが好きだったという、のぞみさん。将来の夢は、俳優として活躍すること。

自由に発信をしたいとの思いがあるため、事務所には所属しないフリーの俳優を目指し、演技レッスンに取り組んでいる。

■“障害の話”をタブーに扱いしない社会になってほしい

「いろいろな考えの方がいらっしゃると思いますが、私は障害を“触れてはいけないタブー”とせず、気軽に話題に出せる社会になってほしいと考えています」

のぞみさんがそう思うのは、健常者の友人に障害の悩みをどこまで相談していいのか悩んだり、片手が塞がるなどの助けが欲しい時に相手の様子を気にしたりしてしまうことがあったからだ。

「自分では気にならないことを健常者の友人が気遣ってくれて、気まずくなったこともありました」

自分自身も違う障害を持つ友人と関わる時には、「どんなサポートをしたらいいのだろう」と考えることがある。だからこそ、優しい気持ちがすれ違い、互いに寂しい思いをしないためにも障害の捉え方や受け止められ方が少しずつ変わってほしいと、のぞみさんは思っている。

また、先天性四肢障害児やその親がそれぞれ気軽に悩みを話せ、一緒に外出も楽しめるような集まりができることも、のぞみさんの願いだ。

「最近、初めて同じ障害の子とテーマパークに行けて楽しかった。同じ障害だからこそ、分かること、気を遣わなくてもいいことがたくさんありました。私は今まで同じ障害を持つ人に出会えず、仲間は本当にいるのかなと心細さを感じてきたので、当事者間の交流が盛んになってほしい」

当事者同士ならば、障害者割引が使える施設で障害者手帳を出すハードルも高くなりにくい。そうした安心感は、当事者の孤独を和らげることにも繋がるはずだ。

「私は、ひとりひとりの存在自体が発信だと思っています。よく、『SNSで発信をしたいけど勇気が出ない』という相談をいただくのですが、生きる中で色々な人と関わること自体が“発信”。同じ障害の方は、みんな発信仲間だと思っています」

そう話すのぞみさんの優しさと強さに触れると、誰かの障害に向ける視線が温かいものになるはずだ。

(まいどなニュース特約・古川 諭香)

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