保健所に収容された中型犬 数カ月たっても行き先は見つからず保護団体の施設へ 「僕の家なんだ、と思ってくれればそれで十分」
蛇口からジャージャーと激しく噴き出す水を前にして「なんでジャージャー出るんだよ(怒)」「お前は一体何者だ(怒)」と必死な様子の中型犬・げんちゃん。
その様子がなんともかわいらしいですが、このげんちゃん、静岡県の保護団体・アニマルフォスターペアレンツで過ごすこと数年になります。
いつも明るく楽しくオチャメに過ごすげんちゃんですが、実は悲しい過去を経験しています。
■団体のキャパシティや譲渡状況から、すぐには保護できなかった
数年前の冬、げんちゃんは静岡県内を彷徨っているところを捕獲され、保健所に「迷い犬」として収容されました。
収容後、間もなくして行政から団体の元にげんちゃんの引き取り依頼がありました。しかし、事前情報では「職員や他の犬に噛みつくなどの攻撃的な面が見られる」とも聞き、団体関係者は複雑な思いを抱きました。
当時、団体では90匹以上のワンコを保護しお世話していました。そのうちすぐに里親が見つかる犬は全体の2割にも満たず、残りの8割以上は譲渡のハードルが高いワンコたちでした。この環境に、さらに攻撃的な行動に出るげんちゃんを迎え入れれば、メチャクチャになることが容易に想像でき、そこで団体関係者は複雑な思いを抱き、即決できなかったというわけです。
■巣立っていく他のワンコの背中ばかりを見続けた数カ月
それから数カ月が経過し、団体のキャパシティに余裕が出てきました。保健所に連絡したところ、数カ月経ってもげんちゃんは迎え入れ先が見つからないとのこと。巣立っていく他のワンコの背中を見続けたげんちゃんの心情を思うと、団体関係者は胸が苦しくなりました。
そして、ここで引き取りを決意。「噛みつくことがある」というげんちゃんを前に、一定の覚悟を持った上で保護し、団体施設に連れて帰ることにしました。
■団体関係者の前では「噛み付く」素ぶりを見せなかった
団体施設に来てからのげんちゃんは、噛みつくこともなければ、攻撃的な行動を見せることが全くありませんでした。
むしろ団体関係者を前に、うれしそうに笑顔を見せては体をすり寄せてきて甘えてくることも。
げんちゃんがどんな場面でスイッチが入り、急に攻撃的になるのかがわからず、警戒しながら接した団体関係者でしたが、しばらく経過しても、相変わらずの甘えん坊。もしかしたら、げんちゃんはしっかり人間を見極めていて、「信頼できる」と思った人間には全く攻撃しないのかもしれません。
■「施設を『僕の家なんだ』と思ってくれたらそれだけで十分」
げんちゃんの年齢はわかりませんが、その見た目や動作からまだ生まれて数年と、若そうな印象です。団体関係者は、げんちゃんにたっぷりの愛情をかけることで、「どんな人の前でも甘えられるようなワンコに成長してほしい」と、献身的に世話を続けることにしました。
現在、げんちゃんの元に「うちの家族になって欲しい」という里親希望者さんからのお迎えは来ていません。しかし、団体関係者はこう言います。
「仮に里親さんとの縁が結ばれなくとも、げんちゃんがこの施設を『僕の家なんだ』と思ってくれるようになったら、それだけで十分」
このように考える理由は、かつてひとりぼっちで彷徨い続け、保健所に収容後も数カ月も寂しい思いをしてきたげんちゃんだからです。
こんなに優しい団体関係者のもとで水と格闘したり、大好きな散歩をしたり、お腹いっぱいエサをもらったりしながら、げんちゃんは今日も笑顔で過ごしています。
団体関係者の思いがそのまま伝わり、げんちゃんがどんな人間の前でも噛み付くことなく、明るく接することができるワンコに成長してくれると良いなと思いました。
(まいどなニュース特約・松田 義人)