元よしもと社長「お笑いはビジネスに役立つ!」 笑いと広報を掛け合わせて…中小企業に生まれるチャンスとは
元よしもとクリエイティブ・エージェンシーの社長で、NSC吉本総合芸能学院の校長も務めた水谷暢宏氏。現在、イベントのプロデュースやコンサルタントを手掛ける一方、笑いと広報を掛け合わせた「おもしろ広報」の技術を学べる「広報のがっこう」を主宰する。「お笑いはビジネスに役立つ」「訓練で笑いの技術は伸びる」という水谷氏の狙いとは何か。笑いは本当に“技術”なのか。広報と笑いとの関係などを聞いた。
■コンテンツの持つストーリーを魅力的に売り出す
「おもしろい人やものに鼻が利くタイプ」と自己分析する水谷さんは、あのよしもとクリエイティブ・エージェンシーの元社長。プロデューサーやディレクターを育成するよしもとクリエイティブカレッジ(現・吉本クリエイティブアカデミー)の立ち上げにも携わり、まさにお笑いのど真ん中で30年以上を過ごした。よしもとでは、無名のコンテンツをうまくストーリー展開して魅力的に売り出していく手法を徹底的に学んだという。プライベートでも、20代の頃からミナミの街で出会った「おもしろい人」とイベントを開催し、満席にしてきたという根っからのプロモーターだ。そんな水谷さんがよしもとを辞めたのは、2019年。56歳のときだった。
辞めてからもそれまでの豊富な人脈を駆使して、知り合った「おもしろい人」をメディアにどんどん紹介した。よしもと時代に知り合ったメンバーで結成された日本4大サーカスの1つ「さくらサーカス」にも、2020年の旗揚げ時から相談役としてプロデュースに関わる。コンテンツの持つ魅力を最大限に引き出す仕事を続けてきた。
■一品への注目で、会社全体が注目される
ある日、水谷氏は「くだらないものグランプリ」を知る。中小企業のものづくりのプロたちが、自社の技術を駆使して、くだらな過ぎて笑ってしまう一品を製作し、その日本一を決めるコンテストだ。例えば昨年は、ワンプッシュで一味唐辛子の小瓶1本半分を出せるロボット『ドバット』を開発した会社が優勝した。
「くだらなくて誰も買わない製品に匠の技を全力投入する面白い会社には、きっと何かあるだろうと注目していたら、やはり後日、メディアで紹介されました」
それだけでなく、「きっと自由な発想がある会社だ」と新規の仕事が舞い込んだり、リクルートにも良い影響がある可能性も高い。
「面白くて匠の技術を持つ中小企業は、もっとたくさんある」と確信した水谷氏。同時に、そんな中小企業とよしもと時代の芸人がダブって見えたという。
「企業もタレントも、せっかく持っている良いものを世の中に面白くアピールする術を知らない」
かつて魅力的なストーリーと共に数々の芸人を世の中に送り出してきた経験を思い出した水谷氏は、「これなら自分にもできる」と広報PRに注目した。
■メディアに注目される「おもしろ広報」は、人の心を動かす
かつて数えきれないほど記者会見に臨んできた水谷氏だが、実は自らプレスリリースを書いたことはない。そこで1年かけて、特にメディアに注目されるリリースの書き方を学んだ。そこに自社商品を面白く発信する「おもしろい」と「広報PR」と、2つのメソッドを掛け合わせ、「広報のがっこう」を立ち上げた。
夏から秋にかけ、第1期を開催。リアルとオンラインのハイブリッドで、受講者は関西をはじめ首都圏や愛媛、鳥取といった地方から計12人が受講し、すでに新聞やテレビで取り上げられた人もいるという。
しかし「面白く発信」といっても、一般人が面白い発信なんてできるようになるのか?水谷氏は、「できる」と言い切る。
水谷氏によると、「おもしろい」とは、「笑う」とか「笑わせる」だけでなく、「気になる」「感動する」「ワクワクする」などの総称だ。心が動いた瞬間、人は面白いと感じるのだという。
「広報のがっこう」では、笑いの発想法を身に付けるワークショップや、講師に落語作家や広報のプロを招いて落語をベースにしたストーリー作り、また気を引くキャッチコピー作りなどを学ぶ。実践に即した力を身につけ、自社商品のアピールに役立ててほしいと言う。
■「おもしろ思考」は、訓練で伸ばせる
「面白いアイデアを出す力は、訓練で伸ばせる」と水谷氏。普段はそんな訓練をしないから、「自分には無理」と思い込んでいるだけだそう。訓練すれば、漫才師が10なら6~7のレベルまでいけるという。
「特にAIに負けない発想力や柔軟な思考力を育てる訓練は、今後のビジネスではむしろ力を入れるべきです」
水谷氏が思う「面白い人」とは、社会に何か発信している人。芸人も音楽家も、良いものを世の中に出していこうと必死なビジネスマンも、みな面白い。「つまり、相手の心を動かす人です」
水谷さんは今日も人の心を動かすことを楽しみ、奔走している。
(まいどなニュース特約・國松 珠実)