関東の人はつい「みなかみ」と読んじゃう?絶好調の俳優・水上恒司 地域で変わる名字の読み方 そういえばあの小説家も…
2018年のドラマ「中学聖日記」で俳優デビューし、今年1月の第47回日本アカデミー賞では「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」で優秀主演男優賞を獲得した水上恒司。高校時代は野球部で、長崎県の強豪創成館高の出身である。小学生の頃から野球に打ち込み、芸能事務所からの誘いも断り続けていたという。
水上恒司は「みずかみ・こうし」と読む。別に難読というわけではない。
では、小説家水上勉はなんと読むだろうか。多くの人は「みずかみ・つとむ」と読み、それが正しいのだが、年配の方だと「みなかみ・つとむ」と読む人も多い。実は、水上勉はかつて「みなかみ・つとむ」と言われていた。
そもそも、「水上」という名字は地形や地名に由来している。水上とは「川の上流」を指し、それに由来する水上という地名も各地にある。こうした多くの場所から「水上」という名字が生まれた。
これらのほとんどは「みずかみ」と読むため、各地の「水上」という名字も「みずかみ」が圧倒的に多い。福岡県出身の水上恒司も「みずかみ」である。
しかし、群馬県の水上は「みなかみ」と読む。ここは利根川の水源地であり、やはり「川の上流域」が由来である。
さて、群馬県水上は温泉地である。関東では「水上(みなかみ)温泉」は誰もが知る有名温泉で、「水上」は「みなかみ」と読むのが常識となっていた。
一方、水上勉は福井県の出身で「みずかみ」である。ところが上京して小説家になると、出版関係者達には当然のように「みなかみ・つとむ」と読まれてしまう。本人もとくに訂正しなかったことから、いつの間にか「みなかみ・つとむ」が定着し、著作でも「みなかみ」と書かれるようになった。
その後、日本を代表する文学者となった水上勉は、改めて名の読みを聞かれた際に「みずかみ・つとむ」と答えたのである。驚いた編集者が「改名したんですか?」と聞くと、「昔から“みずかみ”で、君たちが勝手に“みなかみ”と読んでいただけだ」と答えたとのこと。以来、水上勉は「みずかみ・つとむ」となったが、古い事典などでは「みなかみ・つとむ」として掲載されている。
では、実際のところ、「みなかみ」と読む「水上」さんはいるのだうろか。
調べてみると、関東地方以外では「水上」はほぼ「みずかみ」と読むが、水上温泉のある関東では「みなかみ」も数%いる。全国を合計すると「みずかみ」が98%ほどを占めるものの、2%ほどは「みなかみ」である。
◆森岡 浩 姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部卒。学生時代から独学で名字を研究、文献だけにとらわれず、地名学、民俗学などを幅広く取り入れながら、実証的な研究を続ける。NHK「日本人のおなまえっ!」にコメンテーターとして出演中。著書は「47都道府県名字百科」「全国名字大事典」「日本名門名家大事典」など多数。