急逝した父 死後も口座に定期的な入金 「誰が何のため?」 カネの経路をたどると“相続の落とし穴”が判明した【行政書士が解説】

都内で貿易関係の会社に勤めている40代のAさんには、離れて暮らす両親がいます。母親は認知症を患っており、近ごろでは過去の記憶があいまいになることが増えてきました。父親は健在で妻の世話をしながら元気に暮らしています。

母親の体調は改善することもなく、日に日に弱っていくある日、父親が突然倒れてそのまま亡くなってしまうのでした。相続手続きなどを行う必要が生じたのですが、体調的に母親にはその力はありません。Aさんが主体で動かなければならないのですが、仕事も忙しく頻繁に帰ることも困難です。

そこでAさんは専門家に依頼することにしました。専門家が父親の遺産を調査したところ、口座に証券会社から定期的に振込がおこなわれていることが発覚します。Aさんも母親も心当たりはありません。わかっているのは証券会社の名前だけです。この謎の振込は何なのでしょうか。北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに聞きました。

ー通帳から証券会社名はわかりましたが、詳細情報はわからないでしょうか

通帳に書かれている証券会社名だけでは、詳細な情報にたどり着くのは困難なことがあります。証券会社取引では通帳の発行がないため、定期的に取引報告が取引先に送付されますが、今回何らかの事情でこの取引報告が発見されなかったのでしょう。

証券会社との取引内容を明らかにするには残高証明書の発行を対象の証券会社に求めることが一般的です。ただし、故人の取引支店や電話番号等証券会社が内規で定める情報提供が遺族からなされない場合、個人情報保護の観点などから、情報の開示を拒否される可能性があります。ひとつの方法としては、弁護士に依頼し弁護士会を通じて、金融機関に照会し、必要な事項の報告をしてもらうやり方があります。

ー別の方法もあるのですか

有価証券取引については、例えば、証券保管振替機構に対し「登録済加入者情報の開示請求」を行ったうえで、各証券会社等へ情報開示を求めるという方法があります。開示請求書などの定められた書類を用意し、郵送することで開示結果を受け取れることができます。

なお必要な書類は、故人と依頼者との関係で違ってくるので注意しなければなりません。このケースではAさんから依頼を受けた専門家が、開示請求を支援し必要な情報を得ることができました。

ー不明なまま進めていたらどうなっていたのでしょうか

証券会社からの振込み内容は社債の利払いと分配型投資信託の分配金と判明しました。Cさんが証券会社に遺していた財産は、かなりの額だったようです。もしその情報が不明なまま相続手続きを進めていれば、あとから問題になっていたかもしれません。仮に手続きが終わってから、その財産の存在が判明していたら分割協議のやり直しが必要な場合があります。また、この財産の存在を考慮せず相続税の申告を不要と判断することで、相続税に関して延滞税や無申告加算税が科せられていたかもしれません。

いずれにせよ専門家が通帳の履歴から証券会社の財産を察知し、無用な支払いを未然に防ぐことができたことは、Aさんにとって幸いでした。

◆松尾武将(まつお・たけまさ)/行政書士 大阪府茨木市にて開業。前職の信託銀行員時代に1,000件以上の遺言・相続手続きを担当し、3,000件以上の相談に携わる。2022年に北摂パートナーズ事務所を開所し、相続手続き、遺言支援、ペットの相続問題に携わるとともに、同じ道を目指す行政書士の指導にも尽力している。

(まいどなニュース特約・八幡 康二)

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