「白杖じゃわからない」全盲男性の切実なお願いが話題 飲み会シーズン…視覚障害者にとって迷惑な物とは
全盲男性が忘年会シーズンの困りごとをユーモアを交えた表現で訴え、ネット上で話題になっています。
「汚い話で恐縮ですが、忘年会シーズンのこの時期、僕たち視覚障害者を絶望の闇に叩き落とすのは、駅のホームや路上のゲロ 白杖(はくじょう)じゃわからないし触れたくない 踏んじゃっただけで途方に暮れるし、あと滑る。なので『あ、そこにあるから避けるのお手伝いしましょうか』なんて、声をかけてくださる方に出会うと、天使かなと思います」(伊敷さんの投稿から引用)
■助けてもらった記憶、今でも鮮明に
Xに投稿したのは伊敷政英さん(47)。生まれつき視覚障害があり、外出するときは白杖を手に歩いています。伊敷さんによると、街なかの吐しゃ物は年末年始や3月から4月にかけての送別会や新歓シーズンに増え、伊敷さん自身も実際に踏んでしまったり、すべって転びそうになったりした経験があるそうです。
「『あれっ、足元がすべるな。もしかして吐しゃ物なのか』と思い、すごく嫌な気持ちになりました。靴の裏が汚れたままの状態で電車に乗らなきゃいけないことがすごく申し訳なくて。白杖の先にも汚れがついているかもしれないから、どこにも触れないようにしなきゃと思って結構しんどかったですね」(伊敷さん)
踏む直前に助けてもらったこともありました。
「5、6年前、JR巣鴨駅の階段を下りていたときに、『そこにあるから気をつけて』と助けてくれた人がいました。声の感じから40代か50代ぐらいの男性です。急に声をかけられてびっくりしたんですが、『よけてよけて』と声をかけてくださったその時の記憶が今でも鮮明に残っています」(伊敷さん)
白杖を使う人を助けようと、急に声をかけたり、勝手に体に触れたりすると、逆に驚かせてしまいます。理想的な声のかけ方はあるのでしょうか。
伊敷さんは「理想的な唯一の正解というのはない気がするんです。どのくらい迫っているか、白杖を使っている人や声をかける人が男性か女性かによっても違ってきます」とした上で、2つの案をあげました。
1つ目は、吐しゃ物のすぐそばまで進んでしまった場合。「もし、あと1、2歩で踏んじゃいそう、杖の先が触ってしまいそうな場合は、緊急事態なので『ストップ、ストップ』と声をかけてしまってもいいと思うんです。もちろん声をかけられた人はすごくびっくりすると思うし、もしかしたら『何だよ!』と言われちゃうかもしれないんですけど、声をかけていただく方が踏んでしまうよりは僕はありがたいです」(伊敷さん)
2つ目は、吐しゃ物まで距離がある場合。「5メートル先だとか、少し方向をずらせば踏まなくていいという時は、通常の声かけと同じように、『近くに汚れたものがあるので、踏まないようにお手伝いしたいんですけど、お手伝いしてもいいですか』というような声かけをしていただけるとうれしいなと思います」(伊敷さん)
伊敷さんの投稿は瞬く間に拡散。伊敷さんは「いやぁびっくりしました。こんなにバズったのは初めてだったので。『今度もしそういう場面に遭遇したら声をかけようと思います』『やってみようかな』『踏みたくないよね』という共感が多かったのは率直にうれしいですね。ノロウィルスや感染症のことに触れている人も多く、確かにそう考えると結構危ないんだなと思いました」(伊敷さん)
■「白杖イコール全盲とは限りません」
普段から自身のSNSを通じて、全盲の立場から積極的に情報を発信する伊敷さん。ネット上に時折見かける「白杖を持っているのにスタスタ歩いている」「あの人本当は見えているんじゃないの?詐欺なんじゃないの?」といった偏見には胸を痛めています。
あらためて、白杖の役割について教えてもらいました。
「白杖を持っているからといって全盲とは限りません。白杖にはセンサー、バンパー、シンボルの3つの役割があります。センサーは障害物や段差などを探る。バンパーは自分の体がぶつかる前に白杖がぶつかってくれる。シンボルは周りにいる人に対して、自分は視覚に障害があって、皆さんと同じように見えていないので少し注意をお願いしますと知らせる役割です。全盲の人は3つ全部の役割で使いますが、例えば弱視で足元が少し見える程度の視力があれば、シンボルとして持っている人もいます」(伊敷さん)
(まいどなニュース・金井 かおる)