人間不信で押し入れに2カ月引きこもり…多頭飼育崩壊から救出された白黒猫 心開き家族と過ごした5年間
年の瀬も迫ってきた、2024年12月15日。尊いひとつの命が空へ旅立った。彼の名前は、おせろくん。
おせろくんは、多頭飼育崩壊現場から救出された子だ。飼い主の肉球さん(@1rEsf75o3dlFlan)はゆっくり距離を縮め、一緒に過ごせた5年間、おせろくんを愛し抜いた。
■多頭飼育崩壊から救出された人間不信の白黒猫
2020年の春、飼い主さんは里親募集を通じておせろくんと出会った。おせろくんは多頭飼育崩壊現場から救い出された子。
救出先の多頭飼育崩壊現場ではガレージに2つのケージが用意されており、男女別にそれぞれ10匹前後の猫たちが入れられていたそう。ケージの中は、糞尿がそのままという不衛生な状態だったが、幸いおせろくんの健康状態は良好だった。
多頭飼育崩壊現場からレスキューされた子は、心に傷を負っていることも多い。おせろくんもコミュニケーションを取ることが難しく、飼い主さん宅では押入れの天袋に引きこもった。
「ご飯もおやつも天袋の中でした。トイレは天袋の一番奥に設置。おせろくんが自らから出てきてくれるのを待ちました」
■妻が意識を失った時に寄り添ってくれた心優しき愛猫
天袋から出られるようになったのは、お迎えから2カ月ほど経った頃のこと。だが、初めて天袋から降りてきた時の目つきは不安そうだった。
そこで飼い主さんは部屋の中におせろくんの逃げ場を設け、メンタルをケア。そうした優しさが届いたのか、おせろくんは徐々に心を許してくれるようになった。
「妻が突然の病に倒れて意識が戻るまで10日間かかった時には、不安で何も手につかない状態だった私をずっと励ましてくれました」
クリクリな目でおやつを食べる顔が愛しい。猫じゃらしを見せると、なぜか吐きそうな仕草をし、視界からおもちゃが消えると何事もなかったかのような態度になるところもかわいい。
一緒に過ごす中で飼い主さんは、おせろくんをより愛するようになっていった。
だが、2023年の夏、健康診断をしたところ、生まれつき腎臓が良くないことが発覚する。1日でも長く生きてほしいと思い、飼い主さんは処方薬やサプリをあげていたが、2024年12月腎臓の数値が突然、悪化。
動物病院で尿に含まれる菌を培養し、適切な治療ができる薬を調べてもらっていた間に息を引き取った。
「適切な薬が判明する予定だった1日前の午後、妻の腕に抱かれて亡くなってしまいました」
■死後も続く「おはよう」や「おやすみ」の声かけ
動物の家族を亡くした喪失感は、「ペットロス」という言葉で語りきれないほど深い。飼い主さんもおせろくんを失った悲しみを抱えながら、なんとか心の整理をつけて生きている。
「悲しみは癒えないと思う。でも、一緒に暮らしていた時のように毎日『おはよう』『行ってくるよ』『ただいま』『おやすみ』と声をかけることで日常を保てています」
うちの子になってくれてありがとう。また会おうね。天国のおせろくんに、そんなメッセージを送る飼い主さんは自身の経験から、頼れる動物病院を複数持っておくことの大切さを説く。
「おせろくんも先代猫のももちゃんもそうでしたが、緊急時や夜間にかかりつけ医が休診で命を救うことが難しいことが多いように感じます。普段からセカンドオピニオンの要領で信頼できる動物病院を複数、受診しておくことが大切だと思いました」
5歳9カ月と短いニャン生ではあったが、深い愛情を注がれながら命の終わりを迎えられたことはおせろくんにとって、意味があることだった。飼い主さんの経験談を知ると、愛猫の守り方も見直したくなる。
(愛玩動物飼養管理士・古川 諭香)