逸ノ城「人間だから」日馬に敗れポツリ

 「大相撲九州場所・初日」(9日、福岡国際センター)

 新関脇の逸ノ城は、横綱日馬富士にいいところなく寄り切られ、黒星スタートとなった。幕下付け出しの初土俵から、所要5場所と昭和以降最速で新関脇に昇進。重圧がかかる場所での黒星発進に、支度部屋では「自分は人間。本当の化け物とは違う」との発言も飛び出した。大鵬に並ぶ史上最多32回目の優勝を目指す横綱白鵬は新小結勢を寄り切り、横綱鶴竜も小結豪風を寄り切った。大関勢は稀勢の里、琴奨菊は勝ったが、豪栄道は宝富士の肩透かしに屈した。

 逸ノ城が発した魂の叫びだった。高い注目の中、日馬富士に完敗した。無念の思いをしまい込んだ支度部屋で、小さめの声で言葉を絞り出した。

 「本当の化け物は普通にできるだろうけど、自分は人間だからいろいろと緊張感とかあります」

 新入幕の秋場所で鶴竜、稀勢の里、豪栄道を破り、13勝を挙げた。規格外の強さで番付を駆け上がり「怪物」という異名が付いたものの、逸ノ城はそう呼ばれることに違和感があったのだろう。敗戦後に、正直な思いをほとばしらせた。

 何もできずに負けた。立ち合い、しっかり腰を割る前にはもう、日馬富士が襲いかかってきた。強烈なのど輪で巨体を起こされ、腹を突かれると、後退するしかなかった。話題性もあって、九州場所初日としては17年ぶりの大入り満員。先場所に続く番狂わせを期待した観客からは、大きなため息が漏れた。

 体調は万全からは遠かった。10月にストレスからくる帯状疱疹(ほうしん)で約1週間入院。以後、良かった時の体の動きを取り戻せず、もがいた。今月に入って骨盤のズレも判明。5、6日と1泊2日で大阪府茨木市内の接骨院で治療を受け、体調は上向いたが、場所前の出稽古もなく勝てるほど、横綱戦は甘くはなかった。

 本人にしか分からない重圧の中で迎えた新関脇場所。まげを結っての初白星は先延ばしになったが、まだ初日だ。「ちょっと後ろから前に思い切り当たっていこうと思ったけど、立ち遅れて全然ダメだった。横綱は速いです。でも、次は今日より長い相撲を取れるように頑張ります」

 “人間宣言”は弱音ではなく、重圧を乗り越えてやるという自分への宣戦布告。逸ノ城が完敗を機に、またひとつ階段を上がる。

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