マートン「ノウミサン、アイシテル!」
「阪神2‐0巨人」(9日、甲子園)
忌まわしき過去に自ら終止符を打った。阪神・マートンが本拠地開幕戦でのお立ち台。インタビュアーが質問しようとすると「チョット、マッテ!」とさえぎった。そして隣にいた能見に抱きつき「ノウミサン、アイシテル~!!」。宿敵の開幕7連勝を止め、まさかの展開に聖地が大歓声に包まれた。
「試合が終わってタイミング的にもそういう流れだったので」と笑顔で明かした。好投を続ける能見を援護するチャンスが訪れたのは0‐0の六回だった。無死二塁から大和が送りバントに失敗した。
鳥谷も三振に倒れ、アウトカウントだけが積み重なる中で迎えた第3打席。「自分が打てる球だけを待っていた」と初球のスローカーブを悠然と見逃してからの2球目だった。外角直球を完ぺきに捉えると打球は快音を残し、猛烈な勢いで中前に弾んだ。二塁走者の大和が快足を飛ばして生還。長野の送球がそれる間に二塁をも陥れ、続く福留の適時打を誘発してみせた。
「前のカードで直球を打ち損じたので、真っすぐをしっかり打つことだけ考えた」。4番として今季初となる適時打だけでなく、四回の左前打、八回の中前打といずれも直球を完ぺきにたたいた。今季2度目の猛打賞で、能見と並んで文句なしのお立ち台。名誉挽回のチャンスを自らたぐり寄せた。
首脳陣の叱責(しっせき)、広くなったストライクゾーンに悩まされ自分を見失った。昨年6月、緩慢な守備について問われた際に「アイ ドント ライク ノウミサン」と暴言を吐いた。冗談のつもりで言った一言が大きく報道された。思い悩み、夏場には関川コーチとも衝突。「何で自分だけ…」。球団関係者にこう漏らすほど、助っ人はあの一言で追いつめられていた。
その呪縛を断ち切り「きょうで終わらせたい」と言った。能見も「何となく感じてました」と受け止めた。心のかたすみに残っていた苦い記憶。もう虎の4番を縛るものは、何もない。