能見びっくりプロ初弾&4安打完投星
「巨人2‐5阪神」(6日、東京ド)
エースの驚弾でG倒だ。4月23日の中日戦以来の登板となった阪神・能見篤史投手(33)が、4安打2失点で完投勝ち。今季2勝目を挙げた。六回にはプロ初本塁打も記録した。前回登板後に出場選手登録を抹消されたが、4月9日に完封した巨人に再び完投し、Gキラーぶりも健在。首位巨人とのゲーム差を4・5に縮めた。
恐怖をわがものとすることが勇気。それを持つことがエースに課せられた宿命とすれば、復帰登板に臨んだ能見が見せた姿が、まさにそれだ。
4月16日の対戦でKOを食らった巨人打線。狭い東京ドーム。「全力で行かないと、打ち取ることができない」。過剰な思いが力みにつながる。
初回1死二、三塁で、4番・阿部に投じたフォークが暴投となり先制点を献上。二回には先頭の長野に被弾。「(フォームが)バラバラでしたね」と振り返る立ち上がりだったが、ここから自らの勇気で、勝利への流れを引き寄せた。
1点を勝ち越した直後の五回。無死一塁から笠原の一塁方向のバントを、体を反転させて二塁へ送球し一走を刺した。「紙一重でしたね。あそこは大きかったです」という好守。投球でも試合の中でフォームを修正し、三回以降は危なげない投球を展開した。
そして誰もが驚がくしたのは、六回だ。1死から外角直球をフルスイング。「ビックリですね」という一撃が右翼席へ消えた。鳥取城北高2年の時以来17年ぶり、プロ初となる本塁打で貴重な追加点を挙げた。
これにはクールな能見も満面の笑み。「入るかどうかも分からなかった。野球人生、プロで1本は打ちたいと思っていたので」。甲子園での試合前練習後は、ほぼ毎日室内練習場で打撃練習を行ってきた。ただこの一打を生んだ要因は、日々の練習だけではない。
3月のWBC。2次ラウンドの台湾戦に先発した能見は、三回に痛恨の押し出し四球を与えた。捕手・阿部の「真ん中へ思い切って投げて来い」のゲキにも「台湾のスイングがすごかった。あれだけスイングされたら投げられない…」。しかし、その屈辱を糧にする。
前回対戦では二回に投ゴロを打った際に手がしびれ、その後の投球が乱れた。試合中に左手中指の爪が割れ、4月23日の中日戦先発後に登録を抹消。それでも「(投手に)フルスイングがいかに怖いかを知った」という男は、自ら臆せずにバットを振る。簡単にできることではない。
「能見に尽きる。投げて良し、打って良し。エースの仕事」という和田監督の賛辞が、働きの大きさを物語る。125球の完投で今季2勝目。だが能見がもたらした『勇気の1勝』は、数字では測れない力を猛虎に与えた。