藤浪が“松山の悲劇”を消し去る
悲劇は歓喜に変えるまで‐。12日のヤクルト戦に先発予定の阪神・藤浪晋太郎投手(19)が、未踏の地・松山をバラ色に染める。昨年、広島相手に連敗を喫した因縁の地で、黄金ルーキーがツバメをぶった切る。
血塗られた記憶は消してしまえばいい。忌まわしき過去の戦績も、怪物新人には何の意味も持たない。もちろん、影響されることもない。初陣・松山で紡ぐ藤浪の剛球。新たな伝説が幕を開ける予感。ツバメ斬りは任せた。
余裕が漂う。サブ球場の外野を走り、三塁側ファウルゾーンで入念なストレッチ。サングラス越しのまなざしが緩み、終始笑顔がのぞいた。本球場のブルペンに場所を移して投球練習。すべてのメニューを消化した藤浪に、硬さのカケラも見当たらなかった。
「調子は悪くないですし、いつも通り投げるだけですね。違う球場で(マウンドの)傾斜も違いますけど、そんなに気にしても仕方ないですから。地方球場もどうってことないですね。特別な試合だとは思ってないんで、いつも通りやるだけです」。生意気に聞こえるフレーズも、数字が言葉に偽りのないことを映し出す。
惜しくも月間MVPを逃したものの、6試合に登板して3勝1敗の防御率2・12。過去3度のヤクルト戦は1勝1敗ながら、防御率は全体を上回る1・80。大崩れしない安定感は、およそ高卒新人の枠には収まり切らない。
昨年7月3日の広島戦。1点をリードした九回、2死二、三塁からの振り逃げで2点を奪われ、ゲームセットが一転、逆転負けの地獄に落ちた。翌日も敗れた。泥沼の6連敗の一因となった松山の悲劇。藤浪なら振り払ってくれる。
「道後温泉の名前は知ってますけど、そんなに松山を詳しい訳じゃないんで。機会があったら、ゆっくり入ってみたいですね」と温泉巡りに興味を示した怪物右腕。スパ好きの男は体調管理にも余念がない。
初めて挑むプロの世界。リラックスしている、できているつもりでも、体はどんな時でも正直だ。「体の状態によって長風呂に入ったり、ゆっくり入ったりとかしてますね」。体を芯から温めることで、細部の疲労除去にも気を配っている。
スケールの大きさが際立つ19歳。身体能力を含めた技術、言葉遣い、思考回路…。怪物の名に恥じない快投。交流戦前ラスト登板をド派手に飾る。