大和が発奮V打!9番降格も二塁打3本
「交流戦、オリックス0‐2阪神」(1日、京セラ)
ソフトバンク戦に備え、博多に到着した阪神・大和の顔は晴れやかだった。大阪から2時間半の車中。「だいぶ、楽になりました」。両手に残した殊勲打の心地よさが気持ちを穏やかにさせていた。
この日、試合前に告げられた打順は先発では初体験の「9番」。開幕から熟成させた西岡との1、2番コンビが52試合目で一時、解体。打順降格の憂き目を快打で吹っ飛ばした。
六回まで金子に無得点に封じられ、迎えたラッキー7。新井の二塁打と野選で無死一、三塁と好機が膨らんだが、良太、藤井彰が攻め落とせない。2死二、三塁で打席にラストバッターの大和。「気持ち的に余裕があった」と、フルカウントから抜けたチェンジアップを強振した。
打球が左翼線で跳ねた。均衡を破る2点適時打。大和は全力で駆けながら「ヨッシャ~!」と絶叫した。三回と五回に打ち損じがいずれも二塁打になった。幸運な2本のダブルが、この試合まで18打席無安打だった大和にとって、精神安定剤になった。
お立ち台で「ツヨぽんが『悔しさを晴らしてこい!』とアドバイスをくれたので、勇気づけられました」とニヤリ。普段は「ツヨシさん」と敬称を外さない3つ年配の西岡を“緩いあだ名”で呼び感謝したが、ベンチ裏では「(アナウンサーがボケを)拾ってくれなかった」と苦笑い。ボケた理由は「いろいろと…」。2人の絆は、コンビが9番&1番になっても、不変だった。
1週間前の日本ハム戦で涙を流した。29打席ぶりの安打がサヨナラ勝利を呼び、感極まった。その8日前、大和の目にかつてあこがれた英雄の涙が飛び込んできた。サッカー元イングランド代表主将デービッド・ベッカムが泣きながら現役引退を表明。11年前の感慨が胸によみがえった。
鹿児島・鹿屋中学時代の02年に日韓で共催されたW杯に熱狂した大和は「ベッカムばかり見ていた」。当時、頭を三分刈りに丸めていた14歳にとってソフトモヒカンは「あこがれだった」。日本が8強をかけ敗れたトルコ戦は体育館に集まった全校生徒で観戦したが、今も大切に胸に刻むのは、鮮烈な貴公子の勇姿。その涙に強く心を打たれた。
「9番で使ってもらっているという気持ちがあった」。30日に甲子園の室内で打撃投手を務めた和田監督の球を約30分間、一心不乱に打ち返した。恩義の快音は連敗を3で止め、巨人に0・5差に迫る追撃打になった。涙は、もうない。ツンツンヘアをかき上げた大和が、勇敢に映った。