マートン、両親の目前で大逆転のV打
「阪神7‐4広島」(28日、甲子園)
甲子園のボルテージが一気に上がった。阪神は八回、マット・マートン外野手(31)の中前逆転打などで一挙6得点。六回まで無安打という嫌な空気が一変した。19日ぶりに戻ってきた聖地・甲子園で逆転勝ちし、6月の勝ち越しが決定。首位・巨人にも2・5ゲーム差に迫った。
冷静だった。点差は1点。走者は二、三塁。単打でいい。期待通り、4番が打った。2者生還。逆転の本塁に滑り込んだ大和が飛び跳ねた。同点のベースを踏みしめた西岡が小躍りした。ベンチは全員が両手こぶしを突き上げた。最高殊勲は、マートンが務めた。
ドラマは八回に待っていた。3点を追い、1死から伊藤隼が右前打で出塁。ここが起点となった。代打桧山が河内の荒れ球を冷静に見極め、四球。1死一、二塁とすると、相手野手によもやのミスが生まれる。続く西岡がたたきつけた打球は一塁ゴロ。二塁封殺を狙った松山がとんでもない悪送球を放り、二塁走者の伊藤が生還した。
さらに広島のミスが連鎖した。イケイケの場面で大和がプッシュバント。捕球したミコライオが二塁へ送球したが、これを安部がポロリ。満塁に好機が広がった。鳥谷二ゴロの間に1点差に迫り、マートンの劇的打を呼びこんだ。
「追い込まれてから直球の意識があった。何とか反応できた」。2ボールから1球ファウルで逃れた。直後の2球はいずれも150キロ台中盤の速球を空振り、ファウル。「あれは打てない」と割り切り、6球目の変化球に対応した。七回にも適時打を放ち、六回まで無安打投球を許していた武内から1点をもぎ取った。マートンさまさまの逆転劇だった。
冷静な対応は球場を離れても変わらない。サヨナラ打月間3本のリーグ記録を達成するなど、絶好調だった交流戦のさなか。慣れないパ・リーグ本拠地への移動を、頭で計算しながら楽しんでいた。
東京駅から最も遠方の埼玉遠征は最終新幹線からの乗り継ぎになった。タクシーを利用する主力選手も多かったが、マートンはJR中央線の最終列車に乗車。「タクシーは1万円以上かかるんだろ。電車は620円なんだ」。体調を優先すれば、楽をする経済力はもちろん、ある。それでもノープロブレムだ!と満員列車を選ぶあたりが精神的な余裕、だったのかもしれない。
米国で暮らす両親が26日に来日。この日招待していた。「今まで通りのプレーをすることを心掛けたよ」。年に一度の親孝行。それでも力まず2本の殊勲打。試合のなかった首位巨人との差は2・5。週明けに控える首位決戦へ、追撃態勢を整えた。
「ノーミサン…」の問題発言を起こした1年前の梅雨時期は、もう遠い過去。今季はマートンがチーム、そして猛虎党一丸の象徴になる。