能見、気迫の1失点完投で3年連続2桁
「広島1‐9阪神」(18日、マツダ)
やっぱり頼りはこの男だ。3連敗中の阪神は、能見篤史投手(34)が広島打線を4安打1失点に抑える完投で、3年連続となる10勝目。チームの連敗を3で止めた。クライマックスシリーズで対戦濃厚な野村鯉の勢いを止める好投。打線も7試合ぶりの2桁安打と、前夜のサヨナラ負けのうっぷんを晴らした。このまま一気に今カード勝ち越しや‐。
笑顔はなかった。ゲームセットの瞬間も、表情を変えることなく迎えた。連敗を止め、3年連続の2桁勝利を決めた白星であってもだ。「最後がもったいないと言うか。すんなりいかないといけない」。あと1死のところで、一発を浴びて逃した完封勝利。能見の胸に、満足の言葉はない。
「野手の方に勝たせてもらった。プレゼントしてもらいました。チームが勝てない時でも、がんばってという声を(ファンからは)いただいていたので」
打線への感謝を口にしたが、今季初対戦の広島を9回4安打1失点に抑えた結果はさすがのもの。3点リードの初回、1死一、二塁のピンチを招いたが、エルドレッドと梵を連続で空振り三振に抑えた。「まっすぐが良かった」と話したように、この日の最速は147キロ。この直球が変化球を生かし、八回までのゼロ行進につながった。
チームは3連敗中で、負ければ7カード連続負け越しとなる一戦。背後に広島の影が迫る中でも、「自分のできることをしようと思っていた」とスタンスは変えなかった。これで11年から3年連続での2桁勝利。「(勝ち星は)9と10では気持ちが違う」と話すが、特別な思いを残すのはこの日達成した「3年連続」よりも前のものだ。
今でも忘れない。「出発」の記憶は、はっきりと残っている。自宅に大切に置かれているウイニングボール。09年9月11日、甲子園での横浜戦(現DeNA)でのもの。7回1失点のピッチングで、初めて2桁勝利を達成した時のものだ。
「(初の2桁は)達成感と言うよりも、これから始まるという感じだった」と振り返る。今の自分があるのも、あの勝利があったからこそ。あれからただひたすら上を見て走り続け、今年は日の丸を背負ってWBCも戦った。今や日本を代表する左腕の一人。「2桁」の重みが、すべての始まりだった。
和田監督は「いろいろな意味で価値がある。今日は申し分ない」とたたえた。CSで対戦の可能性がある広島を相手にした、左腕の快投。チームの連敗ストップも含めて、価値あるものだ。
「(今後も)しっかり準備をして、まっすぐが走らないとどうにもならないのでしっかり追い求めていきたい」と能見。語る表情は涼しくても、節目に示した濃厚な106球に貫禄が漂う。まだ通過点、さらなる歓喜を求めて投げ続ける。