阪神で若手野手が育たないワケ
星野楽天悲願の日本一は、シーズン24勝無敗(1セーブ)の大エース・田中、15勝を挙げて新人王当確の則本、そしてシリーズMVPに輝いた美馬の快投、粘投、激投が大きく寄与したのは疑いようがない。ただ、個人的には「小粒でもピリリと辛い」山椒のような“星野チルドレン”たちの活躍が、すごく目に焼き付いている。
3番を打った銀次と5番を任された試合もあった枡田は、共に高卒出のプロ8年生。切り込み隊長の岡島は2年目の24歳で、第7戦で2安打を記録した聖沢は大学から入った6年目の26歳。彼ら楽天生え抜きの野手と、メジャー帰りのキャプテン・松井やDeNAから移籍してきた藤田ら中堅・ベテラン勢、そしてジョーンズ、マギー両助っ人とうまく融合し、投手陣を強力に支えきった。
高卒野手をうまく育てて1軍の戦力にした楽天と比較すると、阪神はいかにも寂しい。ここ10年間のドラフトで指名した高校生は合計26人いるが、今現在1軍で活躍している野手は、楽天・銀次と同学年の大和ただ1人。投手を含めても今年の新人・藤浪を入れた2人のみだ。
対象を過去30年間に広げてみても。高卒野手で活躍した選手はごくわずか。指名した計41人中、目を見張る活躍をみせたのは、1989年のドラフト5位・新庄、96年ドラフト3位・浜中ぐらい。ただこの2人とて打撃タイトルを獲るまでに至っていないし、当時の他球団の主力と比べたら落ちると言わざるを得ない。
「うちも銀次や岡島のような若手が出てきてほしいんだが…」。先日、阪神2軍が秋季練習を行っている鳴尾浜を訪ねた際、平田2軍監督が苦笑まじりにこぼしていた。視線の先にいたのは、東海大相模から投手として入団し、打者に転向した3年目の一二三慎太外野手。同じ3年目の中谷や藤浪の同級生・北條ら有望株と言われる選手はいるが、現時点ではその片りんすら見せていない。
阪神は若手を育てるのが下手‐。今やこのレッテルが定説になりつつある。現状を見る限り、これに球団が反論できる材料は見当たらない。では、現場を預かる監督やコーチの心境はどうなのか。八木2軍打撃コーチに聞くとこんな答えが返ってきた。
「楽天の田中や銀次らは24歳でしょ。しっかりした体力がつくのは、このあたりからですよ。でも、我々はそれまでに何とか(戦力となる)メドを立てなきゃいけない。球団によって事情が違うだろうけど…」
今オフ、阪神は今年で7年目を迎えていた25歳の野原将志内野手と橋本良平捕手の2人を戦力外とした。野原は2006年高校生ドラフト1位の選手。八木コーチの言う「体力がついてくる年齢」だが。球団はあえて断を下した。“勝つこと”と“育てること”の双方が要求される阪神独特のお家事情が、この背景にある。
2009年から11年までの真弓政権下で野手総合コーチを務めた野球評論家・岡義朗氏は「問題の一つは阪神の置かれた環境にあると思う。1軍で結果が残せなければすぐ2軍に落とされてしまう。指導者の側に若手を使う勇気と、使い続けるという継続性がない。上本などは我慢してずっと使えばそれなりに結果を出せるのに…このあたりの一貫性にも欠けている」と指摘する。
元西武・清原や元巨人・松井のように、素材そのものが図抜けているならすぐにでも1軍で戦力となりうる。阪神もこの2人の指名競争に参戦はした。だが、これらを外して以降は“安全策”に切り替えるドラフトが続いた。2007年・大阪桐蔭の中田(現日本ハム)の競合に参戦したものの敗退。外れで指名した横浜の高浜はFAで獲得した小林宏の人的補償でロッテにもっていかれた。高卒野手が育たない下地は、ドラフト戦略にもある。
1993年以降の20年間で、阪神がドラフト1位で野手を指名したのは、97年・今岡(東洋大)、98年・中谷(智弁和歌山)、2003年・鳥谷(早大)、06年・野原(長崎日大)、07年・高浜(横浜)の5回で、今も活躍しているのは鳥谷だけ。一方、セ・リーグ覇者の巨人は、97年・高橋由(慶大)、00年・阿部(中大)、06年・坂本(光星学院)、07年・藤村(熊本工)、08年・大田(東海大相模)、10年・長野(ホンダ)の6回で、藤村と大田を除いた4人が1軍のレギュラーで名を連ねている。
スカウトの眼力とドラフト戦略、そして、現場指導者の技量とチームの成長戦略。これらがうまくかみ合わってはじめて「勝てるチーム」ができる。鳥谷が抜けた後の阪神を考えると、空恐ろしい。
(デイリースポーツ・中村正直)