「阪神４‐０ＤｅＮＡ」（１７日、甲子園）

　強烈な浜風が阪神・マートンにほほえんだ。鮮やかなデーゲームの芝生に弾んだ白球‐。チャンスを拡大し、偉大な記録に並んだ一打に一塁上でわずかに笑みをこぼした。６年在籍したバースが持つ歴代最多安打記録。驚異的なペースで安打を量産してきた助っ人が、来日５年目で肩を並べた。

　場面は四回だった。１死一塁で迎えた第２打席。モスコーソが投じた外角スライダーをバットの先で拾うと、打球はフラフラと中前へ上がった。右翼からの強烈な浜風に押し戻された白球は、二塁と中堅の間にポトリ。５月初となる４、５番の連打で一、三塁とチャンスを拡大し、先制点を含む一挙３得点を演出した。

　「（記録に）並んだことはうれしいですが、チームが勝ったこと。それが一番です」と穏やかな笑みを浮かべた。過去４年間で３度の最多安打に輝き、通算打率でも・３１７とハイアベレージを誇る。その傍らにはいつも黒ずんだ“相棒”がいる。

　新品のバットを卸す際、必ず松ヤニを使って丹念に土を塗り込む。鮮やかな白木の部分を汚す理由を「小さいときから野球は泥だらけになって、汚れてやるものだったでしょ」と言う。

　打撃が楽しいと思った子供のころ。ただボールを打つことに没頭したあの時期を忘れないように‐。スランプに陥っても、苦難の時でも黒ずんだバットを見つめた。異国の地で積み重ねた７４３本のヒット。そこには初心を忘れない、“哲学者”らしいマートンの姿がある。

　和田監督は「（バースと）タイプは違うけど、ヒットを打つことに関してはセ・リーグＮｏ．１」と称賛を惜しまない。史上最強の称号はいずれ、この男が手にする。