西岡“帰還”G倒8連勝で2位再浮上
「巨人5‐12阪神」(11日、東京ド)
こんなにドラマチックな帰還もないだろう。阪神・西岡剛内野手(29)が六回1死二、三塁で代打出場し、巨人が敷いた内野手5人シフトを打ち破る、中堅への2点適時二塁打を放った。3月30日の巨人戦、この東京ドームで大けがを負った男が、見事な一打で、2007年以来7年ぶりの8連勝に貢献した。6月17日以来の2位浮上でGに3・5ゲーム差。この勢いで第2戦も必ず取る。
こんなストーリーを、誰が想像できただろうか。3月30日、東京ドームのグラウンドから救急搬送された西岡。あの日から3カ月半。背番号7が敵地を経験したことがないような大歓声で揺るがした。王者を突き放し、8連勝を呼び込む中堅への2点適時二塁打。復活のシーンはもはや、筋書きのないドラマとしか言いようがない。
場面は六回だった。大和からの4連打で2点を勝ち越し、なおも1死二、三塁。ここで今成に代打・西岡が告げられた。球場全体からわき起こる拍手と大歓声で迎えられ、打席に入った背番号7。これ以上の失点は防ぎたい巨人ベンチも、カウント2‐2となったところで動いた。
左翼手の亀井を内野に入れて5人体制にし、右中間と左中間に外野手を配置する奇策。球場全体が異様な空気に支配される中、迎えた6球目だった。「意識したら術中にはまる。無心で行った」と136キロの直球を振り抜くと、打球は無人のセンターへ飛んだ。
シフトをあざ笑うかのように、ど真ん中を破って2者が生還。二塁に到達した西岡は、何度も両手をたたいた。「普通だったらあの場面は関本さん。使ってくれた監督の期待に応えたかった」。ベンチに、そしてファンに感謝の思いを伝えるために突き上げた左腕は、あの日のシーンとだぶって映えた。
「なんであの時、左腕が上がったのか今でも不思議。病院ではまったく動かなかったのに…」。衝突の直後、鎖骨と肩をつなぐ関節は完全に脱臼していた。それでも救急車に乗り込む直前、両軍ファンからわき起こる声援に、動かないはずの左腕が上がった。
「人間の力って凄いんやなと思った」。あのシーンがあったからこそ、背番号7は苦しいリハビリも乗り越えられた。レギュラーの座を失い、どん底に落ちても声援を送ってくれるファンがいたからだ。
「支えてくれて、背中を押してくれた野球ファンに感謝したい」と思いを伝え、スタンドへ一礼した西岡。誰もが待ち望んだ男の復活‐。それは間違いなく猛虎に新たな勢いを生み出す。