上本、悔しさ引きずりながら前に進む
阪神・上本博紀内野手(28)が24日、デイリースポーツの取材に応じた。練習休養日のこの日、単独で次戦の地・広島に移動した選手会長は、自らの言葉で今季ここまでを振り返った。執念で「結果」にこだわり、ミスをすれば、あえて切り替えない。悔しさを引きずりながら、翌日の試合に臨む。28歳が「素の自分」をのぞかせた。
生まれ故郷の福山を通過し、広島へ向かう道中。上本が「素の自分」を語った。開幕からここまでを振り返ると、浮かびあがるシーンは消去したくなるものばかりだという。
「記憶にあるのは悪いことだけ。打てなかったこととかミスとか…。良かったなあと思うことは、ひとつも残っていない」
打率・295はセ・リーグのベスト10。10盗塁はチーム最多。安打、打点、本塁打…すべて、現時点で過去5シーズンの数字を上回っている。進化の予感、実感は必ずあるはずだが、本人は「全然…」と、首を横に振る。
では、聞こう。打撃力を発揮している理由を。見る限り、打撃フォームが一変した。バットを短く持ってから結果が伴っているように思う。プロ6年目は待ちに待ったポテンシャル開花のとき。周囲の目にはそう映っている。
「変えたのはバットの持ち方だけで、ほかに技術的なことは何も変えていない。バットを短く持ったから打てるようになったとは思っていないし、短く持って良くなったかどうかは、結果でしか説明できないと思う。いま、2割9分ちょっとですか。この数字が良いのかどうか分からないけれど、まわりの人が『良くなった』と言うのは、結果が出たときにそう言うのであって、バットを短く持っても打ち方を変えても、結果が出なければ、それはダメなやり方なわけで…」
何を聞いても「結果がすべてだから」と、いつも言う。「結果」という意味では、前夜は悔いが残ったかもしれない。1点差で3連戦3連勝を逃した本拠地の巨人戦。上本の1プレーがデイリースポーツ紙上でも評論の対象になった。
勝敗の分岐点…とされた場面は同点の九回1死一塁。一塁走者の巨人鈴木が打者村田への3球目に盗塁を企図した。二塁ベースに入った上本は梅野の送球を捕球し、滑り込んだ鈴木の左足にタッチ。ネット裏の記者席からは「アウト」に見えた。カメラマンの写真でもタッチが早いように映る。だが、デイリースポーツ評論家の藤本敦士氏は「タッチが優しかった」と指摘する。
上本本人はこれについて「判定なので」と語りたがらなかったが、これが決勝の走者となっただけに悔しさ、腹立たしさが頭から離れなかったはずだ。性格的に失敗を引きずるほうか?ぶしつけな質問をしてみた。
「ひとつのプレーを引きずるときもあれば、そうでないときもある。ミスをした日は、家に帰ってからもずっと考えることはある。そんなに簡単に切り替えられるものではない。でも、たとえ切り替えられなかったとしても、それが悪いことだとは思わない。どういう状況でも、そのなかでやるしかないと思っているので」
昨夜のプレーを第三者が「上本のミスだ」と追求することは簡単だが、両軍ともに一瞬一瞬全力プレーの結果であり、一番悔しい思いをしているのは間違いなく上本だ。広陵高OBで上本の先輩にあたる金本知憲氏は現役時代にこんなことを言っていた。「失敗とか負けたことを引きずったまま夜寝て、次の日も引きずったまま球場へ行くよ、オレは。その悔しさを持ってプレーしたほうがいい結果になることが多いんだって」。後輩はいま、その魂を引き継いでいるように映る。
5月3日のヤクルト戦(神宮)で雄平の打球を右手の親指に当てて負傷した。検査の結果は「右親指末節骨骨折」。翌日出場選手登録を抹消されたのだが、その間、上本を欠いたチームが目に見えて失速したことはファンの記憶にも新しいだろう。昨季は侍ジャパンとの強化試合で打球を追って味方選手と激突、開幕前に戦線を離脱した。一昨年も故障に泣いた。さかのぼって嘆いても始まらないが、もっと早くレギュラーにならなければならない選手だ。
「正直なところ、気持ちの面とか精神論はよく分からない。要は、技術や体力があるか、ないか。そんなふうに思っているので、僕の場合は単なる技術不足だと思う。練習してうまくなっていくしかない」
結果、結果と言うが、見えないところでプロセスにはこだわっている。技術不足を認識し、解決策をどん欲に求めてきた。今年だってシーズン途中にもかかわらず、用具提供を受ける久保田運動具店に先端の重いバットを発注し、練習時から試行錯誤を繰り返していた。バットを変えた理由を知りたい。でも、語りたがらない。まだ「結果」が出ていないものだから。
西岡の負傷離脱で巡ったチャンスを逃さず、初めて主力として臨むシーズンだ。残り57試合。正念場の夏を乗り越え、勝負の秋へ。負けられない、しびれる戦いを強いられる日がやってくる。
「チームの勝ち負けについては、自分ではどうなるか分からないし、実際のところ、結果論になってくる部分もあると思う。ほかの選手もそうだろうけど、僕は自分のやるべきことをやっていくしかないと思っている」
夕方5時、ブルーの長袖シャツに身を包み、広島に到着した。待ち受けたカメラマンのフラッシュを浴びながら、強い西日が差す在来線口へ向かった。前夜、自打球を受けた左足も、死球を受けた右手も、問題はない。
地元広島のマツダスタジアムは10年にプロ初スタメンを果たした地だ。その試合でいきなり猛打賞をマークし、取材陣から感慨を問われたプロ2年目の内野手は「特にそういうものは…」と素っ気なく答えていた。あれから4年。7月4日に28歳を迎えた上本はいま、選手会長として、リードオフマンとして、なくてはならない存在に成長した。
首位巨人とは2・5差。梅雨時を圧巻の強さで乗り切り、V争いの資格を取り戻した。
「自分たちは自分たちのことをやっていくだけ。これから新聞などで優勝争いだとか書かれることがあっても、それが気になることはないと思う。優勝争いをしているから気持ちを入れてやるとか、そういうことはあまり好きじゃないので…。僕らは1試合、1試合、どの試合も大事だから」
回想するのはいつも「打てなかった」こと。「守れなかった」こと。でも、上本は切り替えない。ミスを引きずりながら、また新しい朝を迎える。