「阪神５‐３ＤｅＮＡ」（４日、甲子園）

　阪神は逆転勝ちで４カードぶりに勝ち越し、２位に浮上した。２‐３の六回に同点とし、なお２死満塁から上本博紀内野手（２８）が勝ち越しの左前２点打を放った。巨人に優勝へのマジック２２が点灯したが、虎は勝ち続けるしかない！

　上本は笑わなかった。お立ち台で大歓声を浴びても、頬は緩まなかった。愛想がない…ときにそう映るかもしれない。この顔色こそが選手会長の勝ち気。生半可でないから、笑顔はつくれなかった。

　ブランコの特大弾で逆転され、迎えた六回。マートンの飛球を桑原が落球して願ってもない好機が転がり込んだ。１死二、三塁と攻勢をかけると、惜しみなく３人の代打がつぎ込まれた。新井が敬遠され、関本は三振に倒れたが、坂の内野安打で同点に追いついた。その直後、上本の執念がプロ２３年目、不惑の三浦を寄り切った。

　「チーム全員でつないでくれたチャンスだったので、絶対に打ってやろうと思っていました。どんな球でも食らいついていくつもりで…」。前打席までハマの番長から３三振を喫していた。「アプローチは変えなかった。いきなり変えてもうまくいかない」。フルカウントからたたいたのは浮いたスライダー。見送ればボール球だったが、泥くさく引っ張り、三遊間を割った。

　前夜は山口を相手に無安打。チームも四回から１６者連続凡退で敗れ、首位巨人との差は３・５差まで離された。値千金の２点適時打で徳俵に後ろ足のかかった窮地を救った。和田監督は「タイミングが合っていなかったんだけど、あそこで打つのが上本」と興奮を抑えるように振り返った。

　チームを預かる指導者からの信頼度は各年代でたたえられてきた。０３年、西村（巨人）、上本らを擁してセンバツを制した広陵高の中井哲之監督（５２）は高校時代の教え子を「ここでどうにかしてくれ…とこっちが思うとき、上本は必ず打ってくれた」と評したことがある。広島県内の野球関係者から一様に名付けられた呼称は「スーパーマン」。窮地を救う男…プロでも目指すべきところだ。

　巨人が広島に勝ちゲーム差は変わらないが、昨季の覇者にマジック「２２」が点灯した。「毎日負けられないので、１試合１試合、勝つつもりでやっている。全員で勝った１勝だと思う。毎日が必死です」。この日のスタンドは３万人を割り込み秋風が漂ったが、上本は熱気を帯びながらそう訴えた。もう、足踏みはできない。選手会長のひたむきさが、逆転Ｖの機運を高める。