上本気迫のG連倒!頭部死球もゲキ走
「セCSファイナルS第2戦、巨人2-5阪神」(16日、東京ド)
この男の闘志が、猛虎を加速させた。阪神・上本博紀内野手(28)が五回、頭部への死球を受け、打席で倒れ込んだ。その後、いったんベンチに下がったが、そのままプレーを続行。続く鳥谷の中前適時打で、三塁を陥れる好走塁を見せた。三回には先制打も放った選手会長。連勝で、アドバンテージを持つ巨人を2勝1敗とリード。あと2勝で、日本シリーズだ。
寡黙な男がグラウンドに灯(とも)した火が、猛虎の闘志を激しく燃え上がらせた。上本が見せた気迫。リーグを制した宿敵をのみ込んだのは、その強靱(きょうじん)な心にほかならない。
まずは打線に火をつける。三回だ。二回まで好投を続ける相手先発・沢村から1死一、二塁の場面で中前への先制打。「形どうこうというより、食らいついていった」という上本らしい一打から、猛虎が2点を奪った。
暗闇を脱する1本だ。シーズン最後の5試合で打率・048と大不振。CS前には和田監督から甲子園の室内練習場で、約1時間20分に及ぶ個別指導を受けるなど復調への道を模索してきた。指揮官も「やっとというかね。上本らしいヒット。久しぶりじゃないかな」と手放しで喜んだ。
そして守備。直後の三回裏には1死満塁の危機を迎える。だが、橋本の二ゴロを軽快な動きでさばき、二塁へ素早いトス。俊足の左打者・橋本を併殺打に仕留める好守で先発・岩田を救った。
だが、真に上本らしさを見せたのは五回だ。無死一塁の場面。沢村が0-2から投じた145キロの直球が、上本の左側頭部を直撃した。その場に倒れ込みうずくまる背番号「4」の姿に球場が一瞬、静まりかえる。
自らの足で治療のためベンチへ下がったが、虎党の不安はぬぐえない。だが上本は「いきます!」と出場への意志を示してベンチから飛び出すと、一塁へと走って向かった。
「大丈夫です。(脳しんとうは)多少ですね」と上本。言葉ではなく、背中で道を示す小柄な選手会長が見せた執念。これに応えられなければ猛虎軍団の名折れとばかりに、鳥谷が、そしてマートンが適時打を放ち、一気に巨人を突き放した。
六回の打席も「(恐怖心は)なかったです」と八回の守備で退くまで出場を続けた。広陵、早大でも主将を務めた男は「チームが勝ったことが一番です」と短い言葉に思いを込める。それが上本博紀。猛虎を頂点へ導く、次代のリーダーだ。