掛布2軍監督が全力注ぐ若虎
かつて虎党を熱狂の渦に巻き込んだ背番号31の背中には、新たな決意がにじんでいた。1988年の現役引退以来、27年ぶりに自身の代名詞ともいうべき番号を背負い、若虎の育成を務める掛布雅之2軍監督(60)。生え抜きの大砲を育てることを最重要課題に、歩む指導者の道。その中で最も期待を寄せるのは、やはり来季3年目を迎える横田慎太郎外野手(20)だった。
「サポートするようなかたちで2年間見ていて、踏み込んでやりづらい立場だったんですよね。監督、コーチの邪魔をしてはいけないという気持ちがありました。でも、立場が変わって金本監督から『もっと踏み込んでやってください』と言われましたしね。頭というより、体で覚えるような野球をやらせていきたいと思います」
13年秋のDC(GM付育成&打撃コーディネーター)就任以来、ずっと気にかけていた将来の大砲候補だ。2年目の今季は2軍戦103試合に出場し、打率・213、9本塁打。ボール球に手を出す場面が多く、チームワーストタイの86奪三振を喫した。掛布2軍監督はその原因を「トップの位置」にあると分析する。トップを深くつくらないと、ボールとの距離が取れずに間も生まれない。好球、悪球の判断がつかないというわけだ。この2年間、改善に取り組む横田にマンツーマンで付き添ってきた。
6月24日・広島戦(富山)。評論家の仕事のため自家用車で北陸へ。試合終了と同時の午後9時過ぎに球場を出発し、5時間以上をかけて大阪府内の自宅へ戻った。時間は午前3時過ぎ。疲れが重くのしかかり体も動かない…。しかし翌日、鳴尾浜には横田にティーを上げるミスタータイガースの姿があった。
「2~3時間しか寝られなかったよ。でも、練習があるんだから。僕が出ないといけないでしょ?」
あふれんばかりの笑顔で話すその表情から、強い信念を感じた。9月23日に急逝した中村勝広GM(享年66)の言葉にも、背中を押されていた。
「掛布、お前が横田を見てやってくれ!」
中村GMが鳴尾浜に来る度にその話になったという。結果が出ず、多くの指導者のアドバイスが逆に横田の頭を混乱させたときも、同じことを言われた。
「横田のことはお前に任せるからな!」
この好素材を生かすも殺すも自分次第。あらためて、徹底的に教え込むことを心に誓った。自らも指導者として学び、スキルを身につけていこうという考えも強くなった。
「人に教えるのは本当に難しいよ。どうしても『これくらいできるだろ』と思ってさぁ、言うんだけどできない。横田には勉強させてもらってるよね」
2軍監督という立場になり、栄光の背番号を背負ってさらに指導の熱がこもる。そんな「師匠」の思いに応えるため横田も必死だ。
「掛布さんが熱心に教えてくれるので、なんとか自分もかたちをつかみたいです」
かつて巨人の長島茂雄監督(現終身名誉監督)は、松井秀喜氏を一から鍛え上げトッププレーヤーへの階段を上らせた。現在、横田は台湾で開催中のアジア・ウインターリーグで奮闘している。鳴尾浜から甲子園へ、そして球界を代表する選手へ-。2人の師弟関係は続く。背番号31の新たな決意は、次代のミスタータイガースの育成に他ならない。(デイリースポーツ・中野雄太)