目を見張る秋山とメッセンジャーの健闘
「セイバーメトリクスで占う鳥越規央の傾向と対策」
交流戦後9勝12敗となかなか波に乗れないタイガース。気づけば首位・広島と9ゲーム差、3位のDeNAとは1ゲーム差で、優勝争いどころか、2位の座も危うくなっている状況です。交流戦前まで2・86だったチーム防御率が交流戦後は4・73、54%だったQS率も44%と急落しました。
ただ、これまでの投手陣の成績を見ると、他チームと比較して大きく違う部分が見えてきました。それは「防御率とFIPの乖離(かいり)」、そしてインフィールドに飛んだ球がヒットになる確率を表す「BABIP」が大きいということです。BABIPは平均的に3割に収束すると言われています。他の5チームが3割程度なのに対し、阪神は3割2分近くあります。
ちょっと前まではBABIPが高い理由は「運悪く、打球がヒットゾーンに飛んでしまう確率が高いため」とされてきましたが、防御率とFIPの乖離をはじめ、守備機会の少なさやゴロアウト率の少なさを示すデータもあることから、守備力の手薄さが投手陣にかなり負担をかけていると分析できます。それに加え、藤浪、青柳、岩田の不在、岩貞の不調、さらにはマテオの登録抹消と、なお一層投手陣に負担がかかる状態が続いています。
そんな中、秋山とメッセンジャーの健闘ぶりには目を見張るものがあります。秋山は前回完投勝利、さらにはQS率73%とセ・リーグのベスト5に入る安定ぶりを発揮しています。また、23日の試合で10勝目を挙げたメッセンジャーはその試合、8回114球、12奪三振、ストライク率65%の好投を見せただけでなく、先制のソロホームランを放つなど大活躍。ショートへのゴロは大和が軽快にさばいてアウトにする様子も含め、安心して見ていられました。
その秋山とメッセンジャーが、先週の金曜と日曜に登板しました。今後のカードを確認すると、広島との対戦は平日にあります。この2人の登板間隔を調整して、8月1日から始まるカードに合わせて追撃態勢をとるのか、それとも取りこぼしをなくすべく、堅実な星計算のもと、週末ローテのままいくのかで、首脳陣の目指す方向性が見えることでしょう。
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※FIP 「被本塁打」「与四球」「奪三振」だけで算出される、守備力によらない投手の力を示す指標。
※QS 先発投手が6回以上投げて、自責点3以内に抑えると記録される。全先発登板におけるQSの割合をQS率という。
※BABIP インフィールド打率。(被安打-被本塁打)÷(被打数-奪三振-被本塁打+被犠飛)で求められる。
※WHIP 1イニングあたりに許すランナーの平均。
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鳥越規央(とりごえ・のりお) 統計学者。大分県中津市出身、1969年生まれ。野球統計学(セイバーメトリクス)を駆使した著書は『本当は強い阪神タイガース』(筑摩書房)『スポーツを10倍楽しむ統計学』(化学同人)など多数。所属学会はアメリカ野球学会、日本統計学会など。JAPAN MENSA会員。江戸川大学客員教授。