乱れた岩田救った 鳥の一声 「間を取りに来た」で制球安定
独自の視点からプレーの深層に迫る「虎目線」-。7月27日のDeNA戦(甲子園)で676日ぶりの勝利を挙げた岩田稔投手(33)に対し、鳥谷敬内野手(36)が絶妙のタイミングで間を取るシーンがあった。制球を乱すさなか、ワンテンポ置いたことで左腕は復調し5回2失点と粘投。球場の雰囲気はガラッと変わり、経験豊富な背番号1の好判断に岩田、そしてベンチも感謝の思いを口にした。
明らかに岩田はマウンドで苦しんでいた。2点ビハインドの四回、2死から投手の石田をストレートの四球で歩かせた。続く倉本にも2ボールと制球が定まらず、異様などよめきに包まれる聖地。その時、鳥谷が三塁塁審にタイムを要求し、マウンドでもがく左腕のもとへ駆け寄った。
一言、何か言葉を掛けると、グラブをたたきさっそうと守備位置へ戻っていった。時間にして約30秒。背番号1が取った行動に、スタンドのどよめきは消えた。潮目が変わったように、岩田を応援する空気になった。その瞬間を鳥谷は謙そんしながら振り返る。
鳥谷「(岩田には)間を取りに来たって伝えただけ。僕が行かなくても、そうなっていたと思いますよ」
ここから岩田は制球が安定。やや速くなっていた投球テンポが、通常のリズムに戻った。ストライクが続き、倉本を三邪飛に仕留めた。その直後、中谷が逆転3ランを放ち、試合をひっくり返し、勝利投手の権利が発生。続く五回は2死から筒香にこそ、厳しい攻めの結果から四球を与えたが、得点を許さなかった。鳥谷がワンテンポを置きに来た場面について、岩田自身は感謝の思いを明かす。
岩田「やっぱり自分一人でやるのと、声を掛けてもらえるのは全然違う。正直、マウンドに来てもらって目を合わせてもらうだけでもいい。自分で『ゆっくり、ゆっくり』と思っていても、知らないうちにテンポが速くなってしまってる時がありますから」
左腕の異変を察知し、絶妙のタイミングで声を掛けに行った鳥谷。ただ試合の流れを変えるだけでなく、「力みすぎていたし、改めて投球はテンポが大事なんだと思った」と岩田に再確認させるほど、大きなプレーだった。それはベンチの首脳陣も同じ認識だ。
高代ヘッドコーチ「あれはナイスタイミングだった。若い選手ではなく、鳥谷が行ってくれたというのが大きかった。ベンチからは制限があって、本当に大事な時を見極めないといけない。そういう意味でも選手同士で声を掛けてくれるのが一番」
投手交代を除き、投手コーチがマウンドに同一投手のもとに行けるのは1イニングに1度だけ(野球規則)。捕手も1試合9イニングで3回までと制限されている(セ・リーグのアグリーメント)。ゲームの流れを読み、繊細な気配りができる鳥谷が内野にいる意味。チームからもファンからも絶大な信頼を寄せられている背番号1が、守備力以外で投手を支えている部分も確実に存在する。