長谷川聡氏断言!藤浪“しなや化”3効果 速い球、コントロール、故障しにくく
阪神の藤浪晋太郎投手(24)が今オフ、取り組んでいるトレーニングとは一体どんな内容なのか。付きっきりで指導する理学療法士の長谷川聡トレーナー(41)が解説した。可動域を広げ、柔軟性が増すことでピッチングにもたらす効果とは-。
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-藤浪が通うようになったのは。
「12月の頭からですね。今で1カ月半、週3回のペースです。始めに体のチェックと張りのケアをして、特に背中、脊柱の動きを出すために物理療法や徒手療法をやってから、トレーニングに入るという感じです」
-最初に取り組んだことは。
「組織的に硬くなっているところを動かしても結局、トレーニングをしてもそれだけの幅しか動かない。より動きやすくするために、いろいろ物理療法をやったりとか、ボクらの徒手療法をやって、幅を広げてから、そこを動かすトレーニングに入っていきました。動きを阻害しているものを取り除いてからトレーニングをするというのが、このジムのコンセプトなので」
-最初の印象は。
「バランスが悪くてその原因がコアの部分の筋力不足と判断した。ジョッキーがみんなできるメニューも最初、藤浪くんはすぐにできなかったので。どうやってバランスを取るかとかを体が分かっていない状態だった」
-それがピッチングにも影響。
「何が問題でコントロールが良くないのかって考えたときに、一緒に動画を見た時にも、ご自身でもやっぱり踏み込んだ時の足の股関節が入りにくいだとか、アーリーコッキング(ボールを持った手がグラブから離れて投球動作に入り、踏み出し脚が着地するまでの段階)においてテイクバックでもう一段階深く入っていなかった」
-以前はそれができていた。
「高卒1年目の動画を見ると、テイクバックでグッとスムーズに1回入って、しなりを作って投げていた。昨シーズンは浅いテイクバックのまま投げていた。本人が最初にここに来て言っていたのはその動きが意識的にグッと入れないとできなくなっている。高卒のころは自然に入っていたと」
(続けて)
「意識して入れるとそこで無駄な力が入ってしまうから体の開きも早くなってしまい、足を踏み込んだ時に股関節もグッと入らないから、早く球を離してしまう。股関節の柔軟性、可動域を広げて、上(テイクバック)は上でしなやかさを出さないといけないねという話をして、そこをテーマにやっています」
-柔軟性を失った原因は蓄積疲労か。
「ボクが一番思うのはウエートなどでごっつくなったことかなと。高卒の時はめちゃくちゃ細いじゃないですか。しなやかさが売りだったのが、“出力”を上げるために筋肉がついて…ウエートがついて大きくなることはいいことなんですけど、それにプラスして、やっぱり可動域といったところにもう少し目を向けていれば、違ったかもしれない」
-筋肉が増え過ぎた。
「いや、ウエートは否定するものではないし、続けていけばいいと思うんですけど、やっぱり硬くなって可動域は狭くなるので、しなやかさというのは何かやらないと失われていってしまう。ボクはそこさえ改善していければ、(ウエートとの)両立は可能だと思いますので。野手の方は技術で補える部分が多いんですけど、投手の方は繊細なんでね」
-筋肉がついた体に以前のしなやかさが戻れば。
「全然変わってくると思いますよ。投球ってひとつタイミングが狂えば球離れが早くなったりだとか、体が開くとか。ちょっと動きが変わるだけでね。今ならワンテンポ遅くなったこと、テイクバックで張りが作れることでいろんなところで好影響が出て、下半身でもワンテンポためができてバンっと投げられるので。ちょっとコンマ何秒変わるだけで変わってくると思う。今はそこの調整を投球をしながらしていってもらえれば」
-球速アップも期待できる。
「単純に言ったら可動域が広がれば、ための時間ができるわけですから。その分しなりが出て速い球が投げられたり、コントロールもつきやすくなるかなと思っています。だから球速もさらに上がると思いますよ」
-そもそも可動域を広げるメリットは。
「間を作れるというのがある。ためを作った分、そこでパワーをためることができて、下半身の可動域も生かせると。ボクらの世界では投球って下半身の力をいかに指先に無駄なく伝えることができるかなので。柔らかければ柔らかいほど下半身の力を上に伝えやすくなる。それがいわゆる“間”なんですけど、その間をつくって最後にバンっと投げ込めるようにする。可動域をつくることによって、より下からのエネルギーを指先に伝えやすくする、言葉にするとそんな感じですかね」
-けがもしにくくなる。
「肩や肘の障害というのは可動域や柔らかさとの関連性が強いことが分かっている。だから柔軟性が上がれば故障をしにくい体になる。ユタカさん(武豊)も天性のものもあるけど、ここでのトレーニングで柔らかさを保っていることで本人は“60歳までやれる”と言っていますし、大きな落馬によるけがさえなければやっていけると思っています」
-効果はでてきている。
「トレーニングをしていって何本かのブロックでできている背骨を分解というか、1個1個を細かくコントロールできるようになれば、乱れても自分で戻せるようになるんですけど、それが徐々にできるようになってきている。コア(の筋肉)をグッと入れてバランスを取りながら、あとの部分を動かせるかどうか。それがピッチングに関わってくる。軸をぶらさずに投げるというのが最終目標。それがシーズン通してできるようになってもらおうと」
-実際にテストの数値も上がっていた。
「FMSが16点から19点になっていますね。上がったところはディープスクワット(股関節)、ショルダー(肩甲骨)、SSRっていってハムストリング(ふともも裏の筋肉)の堅さ、つまりこれも股関節にかかわるところですね。それも柔らかくなって19点。21点の満点まであと2点。コアの部分。そこがまだ伸びる要素がある。あと股関節の柔軟性は出てきているけど、それを動きの中で使う面でまだ満点にいたっていない。その2点かな。でも股関節、ショルダーと狙っているところは上げることができている」
-一般の人は何点ぐらい。
「11~14点ぐらいに収まるでしょうね。14点以下なら修正が必要になって、11点を下回ったら機能障害、ケガをしていると判断されるので」
-これまで満点を取った人は。
「Jリーグの京都サンガから札幌に移った岩崎悠人はそうでしたね。すごいですよ、彼の動きは。プレーを見ていても違いますよ。彼の動きは究極ですね。藤浪くんにもその動きをここで見てもらいました」
-武豊は。
「確かほぼ満点でしたね。今引っ掛かっているところがなくて問題がないから、最近全く数値は取っていないですけど。でも藤浪くんも1カ月半でここまで改善するってなかなかなんですよ。やっぱりアスリートって早いですよね。ケガの回復でもトレーニングによる変化も」
(続けて)
「専門的な言葉が多くて説明しづらいんですけど、彼は通じやすいんですよ。ボクらが言っていることをどれだけ理解できて、それを実戦できるかで効果が変わってくる。彼の場合、体の動きとかに興味がすごくあって、自分自身でも勉強されているので。専門用語とかもすごくよく知っていますし。だからトレーニングをしていても、この〇〇筋を意識しながらとか説明できるし、向こうから聞いてきますよね。ここを動かすにはどの筋肉を意識したらいいんですか?とかね。そのへんがすごく自分の体に敏感というかね、自分の体にすごく興味を持っているので、やっぱりすごいですよね」
-一流選手の共通するところ。
「そうですね。ユタカさんも自分でケガされてからすごく興味を持ちだして、いろんな他のアスリートから情報をもらってきたりとかして、すごい体に敏感ですね」
-長谷川さん自身も阪神ファン。
「むちゃくちゃファンで、昔からデイリーを読んでいましたよ。ずっとタイガースで働きたいなっていう願望があって“オマリーの通訳をしたいな”とか。この仕事を選んだのもその願望が影響していますからね。今も息子と広島、東京ドーム、名古屋、もちろん甲子園も行って応援しています。だから藤浪くんにはいろんな意味で本当に活躍してほしいですね。でも、去年なんかよりは絶対に(成績は)良くなると思いますよ」
◆長谷川聡(はせがわ・さとし)1977年7月20日生まれ。41歳。滋賀県出身。人間・環境学博士、理学療法士、京都大学医学研究科プロジェクト研究員、日本アスリートリハビリテーショントレーナー協会メディカルアドバイザー。2016年10月に現在のジムを開業し、CEOを務める。トレーナーを担当するのは武豊、ルメール(JRA)、村上博幸(競輪)など。趣味は草野球。